incur
第2音節にアクセントがあります。母音 /ɜː/ は、口を少し開けて『アー』と『ウー』の中間のような音を出すイメージです。日本語の『あ』の口の形で『うー』と言うと近い音になります。/r/ の発音は、舌をどこにもつけずに奥に引いて発音します。アメリカ英語では /r/ の発音がより強調されますが、イギリス英語では弱くなる場合があります。
専門的な内容に関するご注意
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招く
好ましくない事態や結果を引き起こす、という意味合い。「問題」「損害」「非難」など、ネガティブな事柄が対象となることが多い。意図せずにそうなってしまった場合に使われる。
He delayed the payment, so he incurred extra costs.
彼が支払いを遅らせたので、追加費用を招いた。
※ この文は、彼が支払いを滞納した結果、追加料金が発生してしまった状況を描いています。思わぬ出費に「彼」が頭を抱えている様子が目に浮かびますね。「incur」は、自分の行動や状況の結果として、望ましくない費用や損害などを「負う」「被る」という意味で非常によく使われます。「extra costs」は「追加費用」のことです。
She failed to check the details and incurred a huge loss.
彼女は細部の確認を怠り、大きな損失を招いた。
※ 彼女がプロジェクトやビジネスにおいて、大切な確認を怠ってしまい、会社に大きな損害を与えてしまった場面です。後悔の念にかられているかもしれません。「incur」は、このように「損失」や「損害」といった経済的な不利益を「被る」際にも頻繁に使われます。「huge loss」は「莫大な損失」という意味です。
His rude comments incurred his boss's anger.
彼の失礼なコメントは、上司の怒りを招いた。
※ 会議中かオフィスで、彼がうっかり失礼な発言をしてしまい、上司が顔を真っ赤にして怒っている、そんな緊張感のある場面が目に浮かびます。「incur」は、「怒り」や「不満」といったネガティブな感情を「引き起こす」「招く」という意味でも使われます。この場合、「彼のコメントが原因で上司が怒った」という因果関係を示しています。
被る
不利益や負担をこうむる、という意味合い。損害や損失、負債など、自分にとってマイナスになるものを経験する場合に使われる。
She felt sad because she had to incur a cancellation fee for her trip.
彼女は旅行のキャンセル料を払わなければならなかったので、悲しい気持ちになりました。
※ 急な事情で旅行に行けなくなり、キャンセル料を払うことになった人の、がっかりした気持ちが伝わります。`incur`は、このように「費用や損害などを被る」という文脈で非常によく使われる典型的な表現です。`had to ...`は「~しなければならなかった」という義務や必要を表します。
He knew breaking the school rule would incur the teacher's anger.
彼は校則を破ると先生の怒りを買うだろうと分かっていました。
※ 校則を破ったら先生に怒られるだろうと、ちょっとドキドキしながら考えている生徒の様子が目に浮かびます。`incur`は、このように「誰かの怒りや不満を買う」という状況でもよく使われます。`breaking the school rule`は「校則を破ること」という動名詞の塊で、この文の主語になっています。
Many young people incur huge debts to buy their own homes.
多くの若者は、自分の家を買うために多額の借金を負います。
※ 夢のマイホームを手に入れるために、多くの人が大きな借金を背負う、という現実的な状況が描かれています。`incur`は、「借金(debt)を負う」という文脈でも非常によく使われる典型的な表現です。`huge`は「巨大な、莫大な」という意味で、ここでは「多額の」というニュアンスです。
コロケーション
借金をする、負債を抱える
※ 金銭的な負債を負うことを指す、非常に一般的なコロケーションです。単に『お金を借りる』だけでなく、利息や返済義務が発生することを強調します。ビジネスシーンや経済ニュースで頻繁に使われます。類語に『run up a debt』がありますが、こちらはよりカジュアルで、意図せずに借金が増えていくニュアンスを含みます。
費用を負担する、経費がかかる
※ 事業活動やプロジェクトなどで費用が発生することを表します。『spend money』よりもフォーマルな響きがあり、会計報告や予算管理などの文脈でよく用いられます。特に、予期していなかった費用が発生した場合に使われることが多いです。例えば、『We incurred unexpected expenses due to the sudden increase in material costs.(材料費の急騰により、予期せぬ費用が発生した)』のように使います。
損失を被る、損害を出す
※ 経済的な損失や損害を被ることを意味します。ビジネスや投資の文脈でよく使われ、『suffer a loss』よりもややフォーマルな印象です。損失の原因が何らかの行動や決定の結果である場合に特に適しています。例えば、『The company incurred a significant loss due to the failed marketing campaign.(その会社は、失敗したマーケティングキャンペーンにより大きな損失を被った)』のように使います。
批判を浴びる、非難される
※ 自分の行動や発言が原因で、批判や非難を受けることを意味します。単に批判されるだけでなく、その批判が正当な理由に基づいているニュアンスが含まれます。政治、ビジネス、芸術など、様々な分野で使用されます。例えば、『The politician incurred criticism for his controversial remarks.(その政治家は、物議を醸す発言で批判を浴びた)』のように使います。
激しい怒りを買う、憤慨される
※ 誰かの激しい怒りを招くことを意味する、やや強い表現です。特に、権力者や目上の人の怒りを買う場合に使われます。文学作品や歴史的な文脈でよく見られます。『wrath』は『anger』よりも激しい怒りを表すため、『incur wrath』は深刻な結果を伴うことが多いです。例えば、『His betrayal incurred the king's wrath.(彼の裏切りは王の激しい怒りを買った)』のように使います。
罰則を受ける、ペナルティを科される
※ 規則違反や契約不履行などにより、罰金や減点などのペナルティを科されることを意味します。スポーツ、法律、ビジネスなど、様々な分野で使用されます。例えば、『The driver incurred a penalty for speeding.(その運転手はスピード違反で罰則を受けた)』のように使います。類似表現に『suffer a penalty』がありますが、『incur a penalty』の方が、自分の行動が原因でペナルティが発生したというニュアンスがより強く出ます。
遅延が生じる、遅れを招く
※ 予定されていたスケジュールよりも遅れることを意味します。プロジェクト、輸送、建設など、様々な分野で使用されます。『cause delays』と似ていますが、『incur delays』は、外部要因や予期せぬ事態によって遅延が発生したというニュアンスが強いです。例えば、『The project incurred delays due to the bad weather.(そのプロジェクトは悪天候により遅延が生じた)』のように使います。
使用シーン
学術論文、特に社会科学系の研究でよく見られます。例えば、「先行研究の不足により、本研究ではバイアスのリスクを招く可能性がある」のように、研究の限界や注意点を示す際に使われます。文語的な表現です。
ビジネスシーンでは、契約書や報告書などのフォーマルな文書で使われます。例えば、「契約違反の場合、違約金を被る」のように、責任や義務を明確にする際に用いられます。口語よりは文語的な表現が好まれます。
日常会話ではあまり使いませんが、ニュース記事やドキュメンタリーなどで見かけることがあります。例えば、「不注意な運転は事故を招く」のように、警告や注意喚起をする際に使われます。少し硬い印象を与えるため、日常会話では別の表現が選ばれることが多いです。
関連語
類義語
『苦しむ、被る』という意味で、ネガティブな経験や損害を経験する場面で使われます。身体的、精神的な苦痛、損失、困難などを広く指します。日常会話、文学、学術的な文脈でも使用されます。 【ニュアンスの違い】`suffer`は、特に苦痛や困難を経験する主体に焦点があります。`incur`が行動の結果として負うことに重点を置くのに対し、`suffer`はその経験自体に重点を置きます。また、`suffer`はより感情的な響きを持つことがあります。 【混同しやすい点】`incur`は通常、行動の結果として何か(負債、非難など)を招くという意味合いですが、`suffer`は行動の結果だけでなく、病気や災害など、自らの行動とは関係なく苦痛を経験するという意味でも使われます。`suffer`は自動詞としても他動詞としても使用できます。
『(病気に)かかる、(借金などを)負う』という意味で、病気や負債など、好ましくないものを獲得する状況で使用されます。医学、法律、ビジネスなどの専門的な文脈でよく見られます。 【ニュアンスの違い】`contract`は、ある種の合意や契約といった意味合いも持ちますが、ここでは『(好ましくないものを)獲得する』という意味に焦点を当てます。`incur`よりも、より具体的な対象(病気、負債)に対して使われる傾向があります。 【混同しやすい点】`contract`は、病気や負債といった具体的な対象に使われることが多いのに対し、`incur`はより抽象的なもの(非難、怒りなど)にも使用できます。また、`contract`は契約という意味で頻繁に使われるため、文脈によって意味を判断する必要があります。
『招く、引き起こす』という意味で、好ましくない結果や反応を引き起こす状況で使用されます。皮肉めいたニュアンスを含むことがあります。日常会話からフォーマルな文脈まで幅広く使われます。 【ニュアンスの違い】`invite`は、文字通り『招待する』という意味合いが強く、好ましくないものを招き入れるという皮肉なニュアンスが含まれることがあります。`incur`よりも、より意図的な行為や誘発的な状況を示唆することがあります。 【混同しやすい点】`invite`は、通常、人を招待するという意味で使われるため、文脈によっては意味が取りにくい場合があります。`incur`のような直接的な意味合いではなく、比喩的な表現として使われることが多いです。
- bring about
『引き起こす、もたらす』という意味で、何らかの結果や変化を生じさせる状況で使用されます。フォーマルな文脈でよく使われます。 【ニュアンスの違い】`bring about`は、原因と結果の関係を強調し、ある行動や出来事が特定の結果を引き起こすことを明確に示します。`incur`よりも、より意図的な行為や計画的な行動によって引き起こされる結果を指すことが多いです。 【混同しやすい点】`bring about`は句動詞であり、目的語が代名詞の場合、`bring it about`のように間に挟む必要があります。また、`incur`のように直接的な影響を示すのではなく、間接的な影響や長期的な結果を示すことが多いです。
『(感情などを)呼び起こす、刺激する』という意味で、特定の感情や反応を引き起こす状況で使用されます。文学的な表現や、感情的な文脈でよく使われます。 【ニュアンスの違い】`arouse`は、感情や欲望を強く刺激するというニュアンスがあり、`incur`よりも感情的な強さが際立ちます。また、性的な意味合いを含む場合もあります。 【混同しやすい点】`arouse`は、感情を強く刺激するという意味合いが強いため、`incur`のように客観的な結果を招くという意味では使いにくい場合があります。また、性的な意味合いを含む場合があるため、使用する文脈には注意が必要です。
『引き起こす、招く』という意味で、注目や反応などを引き寄せる状況で使用されます。しばしば、好ましくない結果を引き寄せるという意味合いで使われます。ややフォーマルな表現です。 【ニュアンスの違い】`draw`は、文字通り『引く』という意味から派生し、何かを引き寄せる、引き起こすというニュアンスを持ちます。`incur`よりも、より間接的な影響や、自然な成り行きで引き起こされる結果を指すことが多いです。 【混同しやすい点】`draw`は、絵を描く、くじを引くなど、様々な意味を持つため、文脈によって意味を判断する必要があります。また、`incur`のように直接的な責任を負うという意味合いは弱く、結果として何かを引き寄せてしまうというニュアンスが強いです。
派生語
- cursion
『襲撃』や『侵入』を意味する名詞。元々は『走る』という意味のラテン語『currere』に由来し、『in-(中へ)』と組み合わさることで『中に走り込む』というイメージから派生。軍事作戦や探検など、特定の場所や領域に急に侵入する状況で使われる。使用頻度は高くないが、歴史的な文脈や軍事用語として登場する。
『流れ』や『現在の』を意味する語。これも『currere(走る)』に由来し、『cur-』の部分が共通。水流、電流、世論など、何かが連続的に進む様子を表す。形容詞としては『現在の』という意味で、時事問題やビジネスで頻繁に使われる。比喩的に『時代の流れ』のような意味でも使われる。
『通貨』や『流通』を意味する名詞。『current』と同じく『currere(走る)』に由来し、『流れ』の概念から派生。お金が社会の中を絶えず『流れていく』イメージから。経済や金融に関する文脈で頻繁に使われ、日常会話でも使用される。
反意語
『避ける』という意味。incurが『(好ましくない事態を)招く』という意味であるのに対し、avoidは意識的に危険や不快な状況から距離を置くことを指す。日常会話からビジネス、法律関連まで幅広く使用される。
『防ぐ』や『予防する』という意味。incurが事態の発生後に言及されるのに対し、preventは事前に何かが起こるのを阻止する意味合いが強い。医療、安全、犯罪などの文脈で特に頻繁に使われる。
『(快楽などを)慎む』や『見送る』という意味。incurが義務や責任などを引き受けるニュアンスがあるのに対し、forgoは自発的に何かを放棄する。ややフォーマルな表現で、契約や権利などの文脈で使われることがある。
語源
"Incur(招く、被る)"は、ラテン語の"incurrere"に由来します。これは"in-"(~の中に、~に向かって)と"currere"(走る)が組み合わさった言葉で、元々は「~の中に走り込む」や「~に突入する」といった意味合いでした。イメージとしては、何かに向かって勢いよく進むことで、結果としてある状況や状態に巻き込まれる、あるいは引き起こすというニュアンスです。例えば、借金という状況に「走り込む」ことで借金を「招く」、あるいは病気に「突入する」ことで病気を「被る」といった具合です。この「走り込む」というイメージから、時を経て、好ましくない事態や責任を自ら引き受ける、という意味に発展しました。日本語で例えるなら、「火中の栗を拾う」という表現が近いかもしれません。自ら危険な状況に飛び込むことで、結果として何らかの損害や責任を「被る」ことになります。
暗記法
「incur」は、避けることのできない運命のように、責任や不利益を招き寄せる言葉。中世騎士道では、名誉を汚す行為を「incur dishonor」と呼び、それは社会的な死に等しいとされました。啓蒙思想の時代には、批判や疑念を招く行為を指すように。現代では、負債や刑罰のように、将来に重くのしかかる事態を招く意味合いで使われます。まるで過去の過ちが未来の重荷となるように。
混同しやすい単語
『incur』と発音が似ており、特に語頭の母音の区別が難しいことがあります。スペルも'in-'と'oc-'の違いのみで、視覚的にも混同しやすいです。意味は『起こる』、『発生する』であり、自動詞として使われます。一方、'incur'は他動詞で『(好ましくない事態を)招く』という意味です。日本語学習者は、主語と目的語の関係に注意して使い分ける必要があります。語源的には、'occur'はラテン語の'ob-'(~に向かって) + 'currere'(走る)から来ており、出来事が『向かってくる』イメージです。一方、'incur'は'in-'(中に) + 'currere'(走る)で、何かの中に『走り込む』、つまり『巻き込まれる』イメージです。
『incur』と発音が部分的(特に語尾)に似ており、スペルも'en-'と'in-'の違いで混乱しやすいです。意味は『保証する』、『確実にする』であり、'incur'とは全く異なります。日本人学習者は、文脈から意味を判断することが重要です。'ensure'は、何かを確実な状態にする、安全な状態にするという意味合いが強いです。発音記号を確認し、/ɪnˈʃʊər/ と /ɪnˈkɜːr/ の違いを意識しましょう。
語尾の 'cure' の部分が発音として共通しており、短縮形のような印象を与えてしまうことがあります。スペルも似ています。'cure' は『治療する』、『治癒』という意味で、名詞・動詞として使われます。'incur' が何か悪いことを招くのに対し、'cure' は悪い状態から回復させるという点で対照的です。語源的には、'cure'はラテン語の'cura'(世話、注意)から来ており、病気を『世話する』イメージです。
『incur』と語頭の 'in-' が共通しており、スペルが似ているため混同されることがあります。意味は『推論する』、『推測する』であり、'incur'とは全く異なります。文脈で判断することが重要です。'infer'は、根拠に基づいて結論を導き出すという意味合いが強いです。'incur' と 'infer' は、どちらもフォーマルな場面で使われることが多い単語なので、文脈をしっかり理解して使い分けましょう。
『incur』と語頭の 'in-' が共通しており、スペルも視覚的に似ているため、特に急いで読んでいる時に誤読しやすいです。意味は『内側の』、『内部の』であり、形容詞として使われます。'incur'とは品詞も意味も全く異なります。日本人学習者は、文全体を読んで意味を把握することが大切です。'inner' は、物理的な内側だけでなく、精神的な内面を表すこともあります。
'ensure' と同様、語頭の 'in-' の共通性とスペルの類似性から混同しやすい単語です。意味は '保険をかける' であり、'incur' とは全く異なります。また、'ensure' と 'insure' は意味が非常に近いですが、'insure' の方がより金銭的なリスクに対する保険という意味合いが強いです。アメリカ英語では 'ensure' の代わりに 'insure' が使われることもあります。発音も似ているため、文脈での判断が不可欠です。
誤用例
『Incur』は一般的に、好ましくない事態(損失、負債、非難など)を『招く』『被る』という意味で使われます。利益のようなポジティブな結果に対して使うのは不適切です。日本語の『被る』という言葉には良い意味でも悪い意味でも使えるため、つい利益にも使ってしまいがちですが、英語の『incur』はネガティブな意味合いが強いことを意識する必要があります。より適切な表現としては、『realize』, 『generate』, 『make』などが挙げられます。
『Incur』は、責任や義務などを『負う』という意味では使われません。タスクや責任を『人に割り当てる』という意味で使いたい場合は、『delegate』が適切です。日本人が『負う』という言葉から『incur』を連想しがちですが、『incur』はあくまで(好ましくない事態を)『被る』という意味合いです。また、この誤用は『entrust(委託する)』のような動詞との混同も見られます。英語では、責任や権限の委譲には明確な動詞(delegate, assign)を使うのが自然です。
『Incur』は、自ら進んで何かを『負う』というニュアンスを含みません。むしろ、意図せず、または避けられずに何か(通常は不快なこと)を被るという意味合いが強いです。借金を『自ら進んで負う』という文脈では、『accept』や『assume』が適切です。日本人が『責任感を示すために借金を負う』という状況を表現する際に、『負う』という言葉から安易に『incur』を選んでしまうことがありますが、英語では自発的な行為にはより積極的な動詞を使うのが自然です。文化的背景として、英語では責任の所在を明確にすることが重要視されるため、自発的な行為には意図が伝わる動詞を選ぶ必要があります。
文化的背景
「incur」は、まるで古代の負債のように、目に見えないけれど確実に重くのしかかる責任や不利益を招き寄せる行為を指し示します。この単語は、単なる行動の結果というよりも、むしろ運命的な必然性や、避けることのできない災厄を暗示するニュアンスを帯びている点が特徴的です。
中世の騎士道物語を紐解くと、名誉を重んじる騎士たちが「incur」の概念と深く関わっていたことがわかります。彼らは、不名誉な行為を「incur dishonor(不名誉を招く)」と表現し、それは剣で受けた傷と同じくらい、あるいはそれ以上に深刻な打撃と見なされました。名誉は騎士のアイデンティティそのものであり、それを失うことは社会的な死を意味したからです。この文脈における「incur」は、単なる結果責任を超え、自己の存在意義を揺るがすような重大な事態を招く行為を指していました。
さらに時代を下り、18世紀の啓蒙思想が台頭すると、「incur」はより抽象的な概念、たとえば「incur criticism(批判を招く)」や「incur suspicion(疑念を招く)」といった使われ方もされるようになりました。これは、個人の行動が社会的な評価に直接結びつくという、近代的な社会契約の概念を反映しています。他者の目を意識し、自らの行動がもたらすであろう評判や評価を予測することは、社会生活を送る上で不可欠なスキルとなりました。そのため、「incur」は、単に何かを引き起こすだけでなく、社会的なリスクを伴う行為を指す言葉として、その重要性を増していったのです。
現代においても、「incur」は、ビジネスや法律の分野で頻繁に用いられます。企業が「incur debt(負債を抱える)」と表現されるとき、それは単なる経済的な負担だけでなく、将来の成長を阻害する可能性や、倒産のリスクをも意味します。同様に、法律の世界で「incur a penalty(刑罰を受ける)」と表現されるとき、それは自由の喪失や社会的なスティグマといった、長期的な影響を伴うことを示唆します。このように、「incur」は、単なる行為の結果を超え、時間軸を超えて影響を及ぼす、深刻な事態を招く行為を表現する際に、その真価を発揮するのです。それは、まるで過去の過ちが、未来への重荷となるように、私たちの人生に深く刻み込まれるのです。
試験傾向
- 出題形式: 主に語彙問題(短文の空所補充)と長文読解。
- 頻度と級・パート: 準1級以上で頻出。1級でも見られる。
- 文脈・例題の特徴: アカデミックな内容、ニュース記事、エッセイなど。費用、責任、リスクなど、ネガティブな事柄に伴うことが多い。
- 学習者への注意点・アドバイス: 「(好ましくない事態)を招く、被る」という意味を理解。"incur debts"(借金を抱える)のようなコロケーションを覚える。類義語(suffer, sustain)とのニュアンスの違いに注意。
- 出題形式: Part 5(短文穴埋め)、Part 7(長文読解)。
- 頻度と級・パート: Part 5, 7で比較的頻出。
- 文脈・例題の特徴: ビジネスシーン(契約、プロジェクト、経費など)で使われることが多い。費用、遅延、損害など、ビジネス上の不利益に関連。
- 学習者への注意点・アドバイス: "incur expenses"(費用を発生させる)、"incur a penalty"(罰金を受ける)など、ビジネスでよく使われる表現を覚える。類義語(cause, lead to)との使い分けを意識。
- 出題形式: リーディング(長文読解)。
- 頻度と級・パート: アカデミックな文章で頻出。
- 文脈・例題の特徴: 学術論文、科学記事、歴史的記述など、抽象的で論理的な文脈で使用されることが多い。結果、影響、責任など、抽象的な概念に関連。
- 学習者への注意点・アドバイス: フォーマルな語彙として認識。文脈から意味を推測する練習が重要。類義語(experience, expose oneself to)とのニュアンスの違いを理解。
- 出題形式: 長文読解、和訳問題、空所補充。
- 頻度と級・パート: 難関大学の入試で頻出。標準的なレベルの大学でも見られる。
- 文脈・例題の特徴: 社会問題、科学技術、歴史、文化など、幅広いテーマで登場。やや硬い文章で使われることが多い。
- 学習者への注意点・アドバイス: 文脈から意味を推測する力を養う。類義語(bring about, give rise to)との使い分けを意識。派生語(incurableなど)も覚えておくと有利。