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「自由貿易は先進国にのみ有利だ」。国内産業を育てるためには、一時的に輸入品に関税をかけるなどのprotection(保護)が必要だと説いた、リストの経済思想。
この記事で抑えるべきポイント
- ✓フリードリヒ・リストは、産業革命で先行するイギリスに対抗する必要があった19世紀ドイツの経済学者であり、その立場が彼の思想の根幹にあります。
- ✓彼の提唱した「保護貿易主義」とは、国の発展段階に応じて、国内の未熟な産業(幼稚産業)を関税などで一時的に保護し、国際競争力をつけさせるべきだという考え方です。
- ✓この思想は、アダム・スミスに代表される「自由貿易が常に最善」という当時の主流経済学への批判であり、普遍的な理論より各国の特殊性を重んじる視点を提供しました。
- ✓リストの理論は、後のドイツ、アメリカ、そして明治維新後の日本などの工業化に影響を与えたという見方があり、現代の国際経済を理解する上でも重要な示唆を与えています。
自由貿易は、本当にすべての国にとって万能の処方箋なのでしょうか?
この素朴な疑問から、現代にも通じる『保護貿易』という考え方を探ります。本記事では、その源流に位置する19世紀ドイツの経済学者フリードリヒ・リストに焦点を当て、彼の思想が当時の常識にどう挑戦し、現代に何を問いかけているのかを紐解いていきます。
Is free trade truly a universal remedy for all nations?
This simple question leads us to explore the concept of 'protectionism,' which resonates even today. In this article, we will focus on the 19th-century German economist Friedrich List, who stands at its source, and unravel how his ideas challenged the conventional wisdom of his time and what questions they pose to the modern world.
アダム・スミスへの挑戦状:リストはなぜ自由貿易に異を唱えたのか?
18世紀後半、アダム・スミスは『国富論』において、政府の介入を最小限にし、市場の自由に任せる「自由貿易(free trade)」こそが国を豊かにすると説きました。この思想は当時の経済学の主流となり、産業革命で世界をリードしていたイギリスの繁栄を理論的に支えました。
A Challenge to Adam Smith: Why Did List Oppose Free Trade?
In the late 18th century, Adam Smith, in his 'The Wealth of Nations,' argued that free trade, with minimal government intervention, was the key to national prosperity. This idea became the mainstream of economic thought, theoretically underpinning the prosperity of Great Britain, which led the world in the Industrial Revolution.
“幼稚産業”を育てる処方箋:保護貿易主義の具体的な中身
リストの理論の核心、それが「保護貿易主義(protectionism)」です。彼の主張は、単なる外国製品の排斥ではありませんでした。将来、国際市場で十分に戦える可能性を秘めているにもかかわらず、今はまだか弱く、競争力がない産業、これを彼は「幼稚産業(infant industry)」と呼びました。
The Prescription for Nurturing "Infant Industries": The Details of Protectionism
The core of List's theory is protectionism. His argument was not a simple rejection of foreign goods. He identified industries that had the potential to compete in the international market in the future but were currently weak and uncompetitive, which he termed the 'infant industry.'
歴史はリストをどう評価したか?:ドイツ、アメリカ、そして日本への影響
リストの思想は、机上の空論では終わりませんでした。彼が提唱した、個人の利益の総和ではなく、国家という共同体の利益を追求する「国民経済(national economy)」という視点は、後の多くの国々に影響を与えました。彼の死後、統一を成し遂げたドイツ帝国は、まさにリストの理論を実践するかのように保護関税政策を導入し、驚異的な経済「発展(development)」を遂げます。
How Did History Judge List?: Influence on Germany, the U.S., and Japan
List's ideas were not confined to academic theory. His perspective of a national economy, which pursued the interests of the national community rather than the sum of individual interests, influenced many countries later on. After his death, the German Empire, having achieved unification, implemented protective tariff policies, much like putting List's theory into practice, and achieved astounding economic development.
テーマを理解する重要単語
remedy
記事冒頭で「自由貿易は万能の処方箋か?」という問いかけで使われています。元々は病気の治療法を指しますが、比喩的に問題の「解決策」という意味で頻繁に使われます。この記事では、経済問題に対する安易な答えに疑問を投げかける、というテーマ設定を象徴する単語です。
文脈での用例:
There is no simple remedy for unemployment.
失業問題に対する簡単な解決策はない。
intervention
アダム・スミスの自由貿易論を説明する箇所で「政府の介入を最小限に」という文脈で登場します。国家や政府が市場や他国の問題に積極的に関わることを指します。リストの保護貿易がまさに政府の「介入」を肯定するものであるため、両者の思想的対立を明確にする上で重要な単語です。
文脈での用例:
The UN's military intervention was aimed at restoring peace in the region.
国連の軍事介入は、その地域の平和を回復することを目的としていた。
development
ドイツが「驚異的な経済発展」を遂げたという文脈や、各国の「発展段階」を考慮するという結論部分で、繰り返し使われる重要な単語です。経済的な成長だけでなく、社会や技術の進歩など広い意味で使われます。リストの理論の有効性と、その適用条件を理解する上で鍵となります。
文脈での用例:
The company is focused on product development.
その会社は製品開発に注力している。
pragmatic
記事の結論部分で、リストの思想を「極めて現実的な経済戦略論」と評価する際に使われる単語です。理想論や理論に固執せず、実際的な効果や結果を重視する態度を指します。彼の理論が机上の空論ではなく、後発国の現実に即した処方箋であったことを的確に表現しています。
文脈での用例:
She took a pragmatic approach to solving the problem.
彼女はその問題を解決するために、現実的なアプローチを取った。
tariff
保護貿易主義を実現するための具体的な手段として登場します。輸入品に課す税金のことで、これにより外国製品の価格を上げ、国内産業が価格競争で不利にならないようにします。リストの理論が単なる理念ではなく、具体的な政策論であったことを示す重要な単語です。
文脈での用例:
The government imposed a high tariff on imported cars.
政府は輸入車に高い関税を課した。
industrialization
リストの思想がドイツだけでなく、アメリカや明治期の日本に与えた影響を説明する文脈で使われます。農業中心の社会から、工業生産を基盤とする社会へ移行することです。後発国が先進国に追いつくための具体的なプロセスとして、この記事の歴史的な射程を広げています。
文脈での用例:
The industrialization of the country led to major social changes.
その国の産業化は大きな社会変化をもたらした。
competitiveness
リストが目指した保護貿易の最終目標を理解する上で不可欠です。彼が主張したのは永続的な保護ではなく、国内産業が国際市場で戦えるだけの「競争力」を身につけるまでの一時的な措置でした。保護が目的ではなく、自立を促す手段であったことを示す鍵となります。
文脈での用例:
The company needs to improve its product quality to maintain its competitiveness.
その企業は競争力を維持するために、製品の品質を向上させる必要がある。
underpin
物理的に下から支えるという意味から転じて、理論や主張などを「根拠づける、支える」という意味で使われる格調高い動詞です。この記事では、スミスの理論がイギリスの繁栄を「理論的に支えた」と表現されています。抽象的な関係性を的確に表現する語彙として学習価値が高いです。
文脈での用例:
The study's findings underpin the author's main argument.
その研究の発見は、著者の主要な主張の根拠となっている。
protectionism
この記事の主題そのものである最重要単語です。自由貿易と対比させ、国内産業を守るために輸入品に関税をかける経済政策を指します。フリードリヒ・リストの思想の核心であり、この単語を理解することが、記事全体の論点を掴むための第一歩となります。
文脈での用例:
The rise of protectionism can harm the global economy by restricting free trade.
保護主義の台頭は、自由貿易を制限することによって世界経済に害を及ぼす可能性がある。
free trade
保護貿易主義の対立概念として登場する、アダム・スミスが提唱した思想です。政府の介入を排し、国家間の自由な取引が全体の富を増やすという考え方です。この記事では、リストがなぜこの「常識」に異を唱えたのかという、議論の出発点として位置づけられています。
文脈での用例:
The agreement is designed to promote free trade between the member countries.
その協定は加盟国間の自由貿易を促進するために作られた。
infant industry
リストの理論の心臓部と言える独創的な概念です。「infant(幼児)」という比喩が示す通り、まだ黎明期で国際競争力はないものの、将来性のある産業を指します。この記事では、保護貿易が守り育てるべき対象として描かれ、彼の思想の独自性を象徴する言葉です。
文脈での用例:
The government argued that the new tech sector is an infant industry needing protection.
政府は、新しいテクノロジー部門は保護を必要とする幼稚産業であると主張した。
national economy
個人の利益の総和を重視したスミスに対し、リストが提唱した対抗的な視点です。国家を一つの共同体と捉え、その共同体全体の利益を追求する経済のあり方を指します。リストの思想が単なる経済理論に留まらない、国家的な視点を持っていたことを示します。
文脈での用例:
The policy was designed to benefit the national economy as a whole, not just specific sectors.
その政策は、特定の部門だけでなく、国民経済全体に利益をもたらすように設計された。