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たとえ全ての分野で生産性が低くても、各国が「得意」な分野に特化して貿易すれば、お互いに豊かになれる。自由貿易の理論的な基礎。
この記事で抑えるべきポイント
- ✓「比較優位」とは、他国より絶対的に生産性が低くても、相対的に得意な分野(機会費用が小さい分野)が存在するという考え方です。
- ✓比較優位の核心は「機会費用」です。何かを生産するために諦めるものの価値がより小さい分野に特化することで、全体の生産量が増加するという見方があります。
- ✓たとえ全ての分野で劣る国があったとしても、各国が比較優位を持つ分野に特化して貿易を行えば、双方に利益が生まれる可能性があるとされています。
- ✓この理論は、19世紀の経済学者デヴィッド・リカードによって提唱され、現代に至るまで自由貿易を支持する有力な論拠の一つと考えられています。
- ✓一方で、この理論は輸送コストや労働者の移動などを捨象したモデルであり、現実の貿易摩擦や国内の失業問題など、理論だけでは説明しきれない側面も指摘されています。
比較優位 ― なぜ国は「貿易」をするのか
もし、あなたが仕事も家事も、隣人より全て苦手だったら、協力する意味はないのでしょうか?一見すると、得意なことが何もないなら、相手に貢献できることはないように思えるかもしれません。実は、国と国との関係にも同じような問いが存在します。一方が全ての分野で優れていたとしても、なぜ「貿易(trade)」は行われるのか。その謎を解く鍵が、経済学の基本原則「比較優位」という考え方です。
Comparative Advantage: Why Do Nations Trade?
If you were worse than your neighbor at every task, both at work and at home, would there be any point in cooperating? At first glance, it might seem that if you have no particular strengths, you have nothing to contribute. In fact, a similar question exists in the relationship between nations. Even if one country is superior in all fields, why does "trade" still occur? The key to unlocking this mystery lies in a fundamental principle of economics: comparative advantage.
「絶対優位」だけでは説明できない貿易の謎
18世紀の経済学者アダム・スミスは、「絶対優位」という直感的な考え方を提唱しました。これは、他国よりも効率的に、つまり低いコストでモノを生産できる国が、その生産に集中し、互いに交換すれば利益が生まれるというものです。「得意なものを作って交換する」という、非常に分かりやすい原則です。この考え方によれば、各国の「生産性(productivity)」が貿易のパターンを決めます。
The Mystery of Trade That 'Absolute Advantage' Alone Cannot Explain
In the 18th century, economist Adam Smith proposed the intuitive idea of "absolute advantage." This principle states that if a country can produce a good more efficiently—that is, at a lower cost—than other countries, it should focus on producing that good and exchange it with others, leading to mutual benefits. It's a straightforward principle: "make what you're good at and trade." According to this view, a country's "productivity" determines its trade patterns.
鍵は「諦めるものの価値」― 機会費用とは何か
比較優位の核心を理解するためには、「機会費用(opportunity cost)」という概念が不可欠です。機会費用とは、何か一つの選択をすることで、選ばなかった他の選択肢から得られたはずの価値のことを指します。つまり、「何かを生産するために、何をどれだけ諦めなければならないか」という視点です。
The Key is the 'Value of What You Give Up': What is Opportunity Cost?
To understand the core of comparative advantage, the concept of "opportunity cost" is essential. Opportunity cost is the value of the next-best alternative that was not chosen. In other words, it's a perspective of "what must be given up to produce something else."
具体例で見る比較優位:なぜ両国は豊かになるのか
経済学でよく用いられる古典的な例を見てみましょう。イギリスとポルトガルが、毛織物とワインを生産するとします。仮に、ポルトガルが毛織物とワインの両方で、イギリスよりも高い生産性を誇っていた(絶対優位を持っていた)としましょう。この状況でも貿易は成立するのでしょうか。
A Concrete Example of Comparative Advantage: Why Both Nations Get Richer
Let's look at a classic example used in economics: England's wool cloth and Portugal's wine. Suppose Portugal has higher productivity (absolute advantage) in producing both cloth and wine compared to England. Can trade still be beneficial in this situation?
自由貿易の理論的支柱と、その限界
比較優位の理論は、国境を越えた「自由貿易(free trade)」を推進する際の、極めて強力な論拠とされてきました。輸入品に課される「関税(tariff)」などの貿易障壁をなくし、各国が比較優位に基づいて生産と貿易を行えば、世界全体の富は最大化される、という考え方です。これにより、消費者はより安く、多様な商品を手に入れることができるとされています。
The Theoretical Pillar of Free Trade and Its Limitations
The theory of comparative advantage has served as an extremely powerful argument for promoting "free trade" across borders. The idea is that if trade barriers like "tariffs" on imported goods are eliminated, and each country produces and trades based on its comparative advantage, global wealth will be maximized. This, in turn, allows consumers to access a wider variety of goods at lower prices.
テーマを理解する重要単語
domestic
「国内の」という意味で、国際貿易(international trade)との対比で使われる重要な形容詞です。この記事では、各国が貿易をせず「国内で(domestically)」全てを生産するケースと、比較優位に特化して貿易するケースを比較しています。この対比を通じて、貿易がもたらす利益の大きさを具体的に理解することができます。
文脈での用例:
The airline offers both domestic and international flights.
その航空会社は国内線と国際線の両方を提供しています。
contribute
記事の冒頭で「得意なことがなければ相手に貢献できないのか?」という問いかけに使われている動詞です。この問いが、一国が全ての分野で劣っていても貿易に参加する意味はあるのか、という本題へと読者を導きます。比較優位の理論は、この「貢献」の形が、絶対的な能力だけでなく、相対的な得意分野によっても見出せることを示しています。
文脈での用例:
Everyone was asked to contribute to the discussion.
全員が議論に貢献するよう求められた。
eliminate
「~を排除する」という意味で、自由貿易の文脈で使われています。比較優位の理論に基づけば、輸入品への関税(tariffs)などの「貿易障壁(trade barriers)をなくす(eliminate)」ことで、世界全体の富が最大化されると論じられています。この単語は、理論がどのような具体的な行動を推奨するのかを端的に示しており、力強い印象を与えます。
文脈での用例:
The company plans to eliminate 200 jobs to cut costs.
その会社はコスト削減のために200の職を削減する計画だ。
benefit
「利益」や「恩恵」を意味し、貿易を行う動機そのものを示す基本的な単語です。この記事では、絶対優位や比較優位の理論が、どのようにして貿易に関わる国々に「mutual benefits(相互利益)」をもたらすかを説明しています。特に、理論の恩恵が国民全体に均等に行き渡らないという批判にも触れられており、多角的な視点を提供しています。
文脈での用例:
He condemned extravagant ceremonies as bringing no benefit to the people.
彼は華美な儀式は人民に何の利益ももたらさないと断じた。
trade
記事全体のテーマである「貿易」を指す最重要単語です。なぜ国と国が取引を行うのかという根本的な問いを解き明かす鍵として、本文中で繰り返し使われています。この単語の意味を軸に、絶対優位や比較優位といった経済概念がどのように貿易の利益を生み出すのかを理解することが、この記事の読解の核心となります。
文脈での用例:
The two countries have a long history of trade.
その二国間には長い貿易の歴史がある。
productivity
「生産性」は、絶対優位と比較優位の理論を支える土台となる概念です。アダム・スミスは生産性の絶対的な高さが貿易パターンを決めると考えましたが、リカードは生産性の相対的な差(機会費用)に注目しました。この単語が、二つの理論の違いを理解する上で、どのような基準で「得意」を測るのかを示す重要な指標となっています。
文脈での用例:
The company introduced new technology to improve productivity.
その会社は生産性を向上させるために新しい技術を導入しました。
tariff
「関税」は、自由貿易を妨げる貿易障壁の代表例として挙げられています。比較優位の理論は、こうした関税などをなくすことで世界全体の富が最大化されると主張します。この記事の後半では、理論の限界点も指摘されており、関税を巡る現代の貿易摩擦を考える上で、この単語は理論と現実をつなぐ重要な役割を果たしています。
文脈での用例:
The government imposed a high tariff on imported cars.
政府は輸入車に高い関税を課した。
specialization
比較優位の理論から導かれる具体的な行動が「特化」です。各国が自国に比較優位のある産品の生産に集中し、貿易で交換することで、全体としてより豊かになれると説明されています。この記事の具体例では、イギリスが毛織物に、ポルトガルがワインに特化する様子が描かれており、理論がどのように実践されるかを示す重要なキーワードです。
文脈での用例:
Her specialization is in the field of environmental law.
彼女の専門分野は環境法です。
opportunity cost
「機会費用」は、比較優位の理論を理解する上で最も核心的な概念です。「何かを選ぶために諦めた選択肢の価値」を意味します。この記事では、たとえ生産性の絶対値が低くても、この機会費用が他国より小さい分野が必ず存在し、それが貿易の利益の源泉になることを説明しています。この視点を持つことで、なぜ貿易が双方に利益をもたらすのかが論理的に理解できます。
文脈での用例:
The opportunity cost of going to college is the money you would have earned if you worked instead.
大学に進学することの機会費用は、代わりに働いていれば得られたであろうお金のことです。
comparative advantage
この記事の主題そのものである経済学の専門用語です。「絶対的に優れていなくても、相対的に得意な分野(機会費用が小さい分野)に特化することで利益が生まれる」という考え方を指します。この概念を理解することが、一方が全てにおいて優れている場合でも貿易が成立する理由を解き明かすための最大のポイントです。
文脈での用例:
The country specialized in producing goods where it had a comparative advantage.
その国は比較優位を持つ商品の生産に特化した。
absolute advantage
記事の前半で紹介される、比較優位と対になる重要な経済概念です。「他国より効率的に(低コストで)生産できる能力」を指します。この記事では、なぜこの直感的に分かりやすい「絶対優位」だけでは貿易の全ての側面を説明できないのか、という問題提起の出発点として機能しており、比較優位の革新性を際立たせています。
文脈での用例:
One nation has an absolute advantage when it can produce a good with fewer resources.
ある国がより少ない資源で商品を生産できる場合、その国は絶対優位を持つ。
free trade
比較優位の理論が、どのような経済政策を支持するかの答えが「自由貿易」です。国境を越えた貿易の障壁をなくし、各国が比較優位に基づいて生産と貿易を行えば、世界全体の富が最大化されるという考え方の根拠として、この理論は極めて強力な論拠とされてきました。この記事の議論の射程を、理論から現実の政策へと広げる重要な用語です。
文脈での用例:
The agreement is designed to promote free trade between the member countries.
その協定は加盟国間の自由貿易を促進するために作られた。