irrational
第一音節の /ɪ/ は、日本語の「イ」よりも口を少し開き、短く発音します。第二音節にアクセント(ˈ)があります。/ʃ/ は「シ」と「シュ」の中間のような音で、舌先を上あごに近づけて息を摩擦させます。最後の /əl/ は、舌先を上あごの裏につけて発音する「ル」に近い音ですが、母音を伴わないため、弱く短く発音します。全体として、強弱とリズムを意識するとより自然な発音になります。
理屈に合わない
論理や理性では説明できないこと。感情的、非合理的な判断や行動を指す。数学においては無理数を意味する。
His fear of flying was completely irrational, even though he knew planes were safe.
彼が飛行機が安全だと知っていても、飛行機への恐怖心は全く理屈に合わなかった。
※ 飛行機に乗るのが怖いけれど、本当は安全だと頭では分かっている…そんな複雑な気持ちが伝わる場面です。「irrational fear(理屈に合わない恐怖)」は、感情が理性を上回ってしまう状況で非常によく使われる組み合わせです。
It's irrational to believe that breaking a mirror brings bad luck for seven years.
鏡を割ると7年間不運が続く、と信じるのは理屈に合わない。
※ これは、根拠のない迷信や非科学的な考え方を指摘する場面です。「It's irrational to do/believe that...」という形は、「〜するのは理屈に合わない」と、ある行動や考えが不合理であることを伝えるときにとても便利です。
Her decision to quit her stable job without a plan seemed completely irrational to her friends.
計画もなく安定した仕事を辞めるという彼女の決断は、友人たちには全く理屈に合わないように見えた。
※ 大切な友人が、周りから見て理解できないような大きな決断をした場面です。感情的だったり、論理的思考に欠けていたりする行動や決定に対して、「irr屈に合わない」というニュアンスで使われます。「seem(ed) + irrational」は「〜のように思える」と、客観的な視点から不合理だと感じた状況を表します。
筋が通らない
常識や倫理観からかけ離れていること。不条理、不合理な状況や出来事を表す。
He made an irrational decision to quit school after failing one test.
彼はたった一度のテストに失敗しただけで、学校を辞めるという筋の通らない決断をした。
※ テストに落ちただけで学校を辞めるなんて、感情的で冷静さを欠いた「筋の通らない」行動ですよね。このように、人が感情的になり、論理的ではない行動や判断をしてしまう時に 'irrational' を使います。特に 'irrational decision' や 'irrational behavior' の形でよく使われます。
Her idea to buy a new car every month seemed irrational to everyone.
彼女が毎月新しい車を買うという考えは、誰にとっても筋が通らないものに見えた。
※ 毎月新しい車を買うという提案は、現実的でなく、経済的にも「筋が通らない」とみんなが感じています。このように、誰かの考えや提案が、論理的に見ておかしい、非現実的だと感じる時に 'irrational' を使って表現できます。'seem irrational' は「筋が通らないように見える」という意味でよく使われます。
It was irrational for them to build a house on top of a volcano.
彼らが火山の頂上に家を建てるなんて、筋が通らないことだった。
※ 火山の頂上に家を建てるのは、非常に危険で常識的に考えても「筋が通らない」行動です。このように、客観的に見て危険だったり、道理に合わない状況や行動に対して 'irrational' を使います。'It is irrational for someone to do something' の形で、「誰それが〜するのは筋が通らない」と表現できます。
手に負えない
感情や行動が制御できない状態。特に強い怒りや恐怖など、ネガティブな感情によって引き起こされる場合に使われる。
She had an irrational fear of spiders, even tiny ones, and always screamed.
彼女はクモに対して非合理的な恐怖心を持っていて、たとえ小さなクモでもいつも叫んでいました。
※ この例文は、小さなクモにもかかわらず、本人がコントロールできないほど強い恐怖を感じる様子を描いています。このように「irrational」は、論理的ではない、理解しがたい「感情」や「反応」を表すときによく使われます。「fear of ~」は「〜への恐怖」という意味です。
His decision to buy that expensive car without any savings seemed completely irrational.
貯金が全くないのにあの高価な車を買うという彼の決断は、全く不合理に見えました。
※ ここでは「irrational」が、道理に合わない、分別がない「決断」や「行動」を表現しています。貯金がないのに高価な買い物をするのは、客観的に見て筋が通らない、という意味合いです。「decision to do ~」は「〜するという決断」という定型表現です。
It's irrational to think you can learn English in one day without any effort.
何の努力もせずに一日で英語を習得できると考えるのは、不合理です。
※ この例文は「irrational」が、現実離れした、根拠のない「考え方」や「信念」を表す場合を示しています。英語学習には努力が必要であり、一日で習得できるという考えは非現実的で不合理だ、という状況です。「It's ~ to do」は「〜することは〜だ」という、一般的な意見や判断を述べる際によく使う表現です。
コロケーション
根拠のない恐怖、不合理な恐れ
※ 特定の対象や状況に対して、客観的な危険性がないにもかかわらず抱く強い恐怖心を指します。例えば、閉所恐怖症(claustrophobia)や高所恐怖症(acrophobia)などが該当します。心理学や精神医学の分野でよく用いられ、日常会話でも『彼はクモに対してirrational fearを持っている』のように使われます。単に怖いというだけでなく、『なぜそんなに怖がるのか理解できない』というニュアンスが含まれます。文法的には、形容詞 + 名詞の典型的な組み合わせです。
不合理な行動、理性のない振る舞い
※ 論理的思考や合理的な判断に基づかない行動全般を指します。例えば、感情に任せて衝動買いをしたり、根拠のない噂を信じて行動したりする場合などが該当します。ビジネスシーンでは、市場の急激な変動を説明する際に『投資家のirrational behaviorが原因だ』のように使われることがあります。対義語は『rational behavior(合理的な行動)』です。こちらも形容詞 + 名詞の組み合わせで、フォーマルな場面でも使用されます。
根拠なき熱狂、過剰な高揚感
※ アメリカの経済学者ロバート・シラーが提唱した概念で、特に金融市場における過度な楽観主義や投機的な熱狂を指します。株価が実体経済とかけ離れて高騰している状況などを指して使われます。『irrational exuberanceが市場を歪めている』のように、経済や金融に関するニュース記事などでよく見られます。この表現は、単なる楽観主義ではなく、『根拠がないのに高揚している』という批判的なニュアンスを含んでいます。
無理数
※ 数学用語で、分数で表すことのできない実数を指します。例えば、円周率πや√2などが該当します。学校教育や数学の専門的な文脈で使用されます。日常会話で使うことはほとんどありませんが、教養として知っておくと良いでしょう。形容詞 + 名詞の組み合わせですが、他のコロケーションとは異なり、専門用語としての意味合いが強いです。
不合理な行動をとる、理性を失って行動する
※ 副詞 + 動詞の組み合わせで、「irrational behavior」を行動として表現する場合に使われます。『彼はプレッシャーのあまりirrationally actしてしまった』のように、普段は冷静な人が、何らかの理由で理性を失って行動した状況を表すのに適しています。ビジネスシーンやニュース記事など、フォーマルな場面でも使用されます。
不合理な決定、理性のない判断
※ 論理的な根拠や合理的な理由に基づかない意思決定を指します。感情的な理由や個人的な偏見に基づいて行われる決定などが該当します。ビジネスや政治の分野で、政策や戦略の誤りを批判する際に『これはirrational decisionだ』のように使われることがあります。形容詞 + 名詞の組み合わせで、客観的な視点から見て不適切だと判断される場合に用いられます。
不合理な信念、根拠のない思い込み
※ 客観的な証拠や論理的な根拠に反する信念を指します。例えば、迷信や偏見などが該当します。心理学や社会学の分野でよく用いられ、『irrational beliefが差別や偏見を生み出す』のように、社会問題の原因を説明する際に使われることがあります。形容詞 + 名詞の組み合わせで、単なる意見の相違ではなく、『明らかに間違っている』というニュアンスが含まれます。
使用シーン
学術論文や教科書で、人の行動や意思決定が合理的なモデルから逸脱していることを議論する際に用いられます。特に心理学、経済学、社会学などで、「非合理的な行動」「非合理的な信念」といったテーマを扱う際に頻繁に登場します。例:「消費者の非合理的な購買行動は、マーケティング戦略に影響を与える。」
ビジネスシーンでは、市場分析や戦略策定において、データだけでは説明できない要素を指す場合に用いられます。会議や報告書で、「〜という非合理的な要因が影響している可能性がある」のように、客観的な分析に加えて、主観的な要素を考慮する必要があることを示唆する際に使われます。例:「市場の非合理的な変動により、予測が困難になっている。」
日常会話では、感情的な反応や理解しがたい行動を指して使われることがあります。ただし、直接的な表現を避け、婉曲的に「ちょっと理解できない」「理屈に合わない」といったニュアンスで用いられることが多いです。ニュース記事やドキュメンタリー番組で、事件や事故の原因を分析する際に、「〜という非合理的な動機が考えられる」のように使われることがあります。例:「彼の非合理的な行動には、何か背景があるのかもしれない。」
関連語
類義語
道理にかなっていない、理性的でない、不当なという意味。日常会話、ビジネス、法律など幅広い場面で使用される。特に、期待や要求、行動などが合理的でない場合に使われる。 【ニュアンスの違い】"irrational"よりも穏やかで、感情的な混乱というよりは、論理の欠如や判断の誤りを指すことが多い。より客観的な評価に使われる傾向がある。 【混同しやすい点】"irrational"は感情や精神状態に起因する非合理性を指すことが多いのに対し、"unreasonable"は状況や期待に対する非合理性を指すことが多い。例えば、「彼の行動はirrationalだ」と言うと、彼の精神状態に問題がある可能性を示唆するが、「彼の要求はunreasonableだ」と言うと、要求の内容が不当であることを意味する。
論理的でない、非論理的という意味。学術的な議論、議論、数学、科学などの分野でよく使用される。論理的な整合性がないことを強調する。 【ニュアンスの違い】"irrational"よりも形式的な論理の欠如を指す。感情的な要素よりも、純粋に論理的な誤りや矛盾を指摘する際に用いられる。 【混同しやすい点】"irrational"は感情や直感に基づく非合理性を含むが、"illogical"は論理的な構造の欠陥に限定される。「彼の考えはirrationalだ」は、感情的な理由で非合理的であることを示す可能性があり、「彼の議論はillogicalだ」は、論理的な構造に誤りがあることを示す。
ばかげている、不条理である、滑稽であるという意味。日常会話や文学作品で、非常に奇妙で、不合理な状況や考えを表現する際に使われる。笑いや皮肉を伴うことが多い。 【ニュアンスの違い】"irrational"よりも極端な非合理性を指し、常識や期待からの逸脱が大きいことを強調する。しばしばユーモラスな文脈で使用される。 【混同しやすい点】"irrational"は必ずしも滑稽ではないが、"absurd"は状況や考えが非常に奇妙で、笑いを誘うような場合に使われる。「彼の行動はirrationalだ」は、深刻な問題を示唆する可能性があるが、「彼の行動はabsurdだ」は、ばかげていることを意味する。
- senseless
意味がない、無意味な、分別がないという意味。日常会話で、行動や状況が理解できない、または目的がないことを表す際に使われる。悲劇的な出来事や無意味な暴力などを表現する際にも用いられる。 【ニュアンスの違い】"irrational"よりも、行動や状況に目的や理由がないことを強調する。感情的な非合理性よりも、合理的な説明ができないことを意味する。 【混同しやすい点】"irrational"は感情や精神状態に起因する非合理性を指すことが多いが、"senseless"は目的や意味の欠如を指す。「彼の行動はirrationalだ」は、感情的な理由で非合理的であることを示す可能性があり、「彼の行動はsenselessだ」は、目的や意味がないことを意味する。
- preposterous
とんでもない、ばかげた、途方もないという意味。日常会話や文学作品で、信じられないほど不合理で、受け入れがたい考えや提案を表現する際に使われる。しばしば強い否定的な感情を伴う。 【ニュアンスの違い】"irrational"よりも強い非難のニュアンスを含み、提案や考えが非常にばかげていることを強調する。受け入れられる可能性が全くないことを示唆する。 【混同しやすい点】"irrational"は必ずしも非難の意を含まないが、"preposterous"は強い非難の意を含む。「彼の考えはirrationalだ」は、単に非合理的であることを示す可能性があるが、「彼の考えはpreposterousだ」は、ばかげていて受け入れられないことを意味する。
派生語
『理性的な』という意味の形容詞。『irrational』から否定の接頭辞『ir-』を取り除いた形。論理的思考や判断ができることを指し、日常会話からビジネス、学術論文まで幅広く使われる。人の性質、行動、議論などを評価する際に用いられ、『理性的判断』のように名詞を修飾することも多い。
- rationalize
『合理化する』または『正当化する』という意味の動詞。『rational』に動詞化の接尾辞『-ize』が付いた形。非合理的または不快な行動や信念に対して、一見もっともらしい理由付けを行うことを指す。ビジネスシーンでは業務の効率化、心理学では自己防衛機制として用いられるなど、文脈によってニュアンスが異なる。
『合理性』または『理性』という意味の名詞。『rational』に名詞化の接尾辞『-ity』が付いた形。論理的思考に基づいた判断や行動の性質を指し、哲学、経済学、心理学などの分野で重要な概念。しばしば、客観的で偏りのない意思決定の基準として扱われる。
反意語
『道理にかなった』『妥当な』という意味の形容詞。『irrational』が理性の欠如を意味するのに対し、『reasonable』は理性に基づいており、論理的で受け入れられることを示す。日常会話では提案や行動が適切かどうかを判断する際に、ビジネスシーンでは契約条件や価格交渉などで頻繁に使われる。
『論理的な』という意味の形容詞。『irrational』が論理に基づかないことを意味するのに対し、『logical』は論理的推論や一貫性があることを強調する。数学、科学、プログラミングなどの分野で特に重要であり、議論や説明が首尾一貫しているかを評価する際に用いられる。
『正気の』『分別のある』という意味の形容詞。『irrational』が精神的に不安定または狂気を帯びている状態を暗示するのに対し、『sane』は精神的に健康で、正常な判断力を持っていることを意味する。医学的な文脈だけでなく、比喩的に『正気な判断』のように用いられることもある。
語源
"irrational"は、ラテン語の"rationalis"(理性的な)に、否定を表す接頭辞"ir-"が付いた単語です。"rationalis"自体は、"ratio"(理性、計算)に由来し、さらに遡ると"reri"(考える、計算する)という動詞にたどり着きます。つまり、"irrational"は文字通りには「理性が無い」「考えることができない」という意味合いを持ちます。例えば、株価の急激な変動が、合理的な説明がつかない場合に「irrational exuberance(根拠なき熱狂)」という言葉が使われることがあります。これは、投資家の心理が過度に高揚し、理性的な判断を欠いている状態を指します。日本語の「非合理的」という言葉が、この単語のニュアンスをよく表しているでしょう。
暗記法
「irrational」は、理性偏重の社会で異質なものとして扱われてきた。フーコーは狂気を社会からの逸脱として指摘し、ロマン主義文学は感情の奔流を描いた。現代では行動経済学が非合理な行動を明らかにし、政治では感情が世論を左右する。理性では捉えきれない人間や社会の複雑さを理解する鍵、それが「irrational」なのだ。
混同しやすい単語
『irrational』と『irrelevant』は、どちらも『ir-』で始まり、文字数も似ているため、スペルミスや読み間違いが起こりやすいです。『irrelevant』は『無関係な』という意味で、文脈によっては『irrational(不合理な)』と意味が通じるように感じられることも混乱を招く原因です。発音も最初の3音節が似ているため、注意が必要です。発音記号を確認し、意識的に区別するようにしましょう。
『irrational』と『rational』は、接頭辞『ir-』の有無だけが異なります。『rational』は『合理的な』という意味で、『irrational』の反対語です。スペルの類似性から、タイプミスや読み間違いが起こりやすく、意味も反対であるため、文脈をよく読んで判断する必要があります。特に、否定形を扱う際には注意が必要です。接頭辞『ir-』は『否定』の意味を持つことを覚えておきましょう。
『illusion』は『錯覚』や『幻想』という意味で、発音の一部(特に母音)が『irrational』と似ているため、聞き間違いが起こりやすいです。また、どちらも抽象的な概念を表すため、文脈によっては意味が混同される可能性があります。スペルも似ている部分があるため、注意が必要です。『illusion』は名詞であり、『irrational』は形容詞であるという品詞の違いも意識しましょう。
『iteration』は『反復』という意味で、最初の音節が『irrational』と似ているため、発音を聞き間違える可能性があります。また、どちらも複数音節からなる単語であるため、全体的な音の印象が似ていると感じるかもしれません。スペルは大きく異なりますが、発音に注意することで区別できます。『iteration』は主にプログラミングや数学の分野で使用されることが多い単語です。
『erosion』は『浸食』という意味で、語尾の『-sion』が『irrational』の音と響きが似ているため、特に発音に注意が必要です。スペルも一部共通する文字があるため、視覚的にも混同しやすいかもしれません。意味は全く異なるため、文脈から判断することが重要です。『erosion』は地質学や環境問題に関連する文脈でよく使用されます。
『irradiation』は『放射』という意味で、接頭辞『ir-』を共有し、かつ長い単語であるため、全体的な印象が似ており混同しやすいです。発音も最初の部分が似ています。意味は全く異なり、『irradiation』は科学技術分野でよく使われる単語です。スペルを正確に覚えるとともに、文脈から意味を判断するようにしましょう。
誤用例
日本語の『理屈に合わない』を直訳すると"irrational"を選びがちですが、この単語はしばしば『非合理的で感情的な行動』というネガティブなニュアンスを含みます。転職理由を説明するような場面では、感情的な衝動を強調するよりも、『inexplicable(説明のつかない)』や『deeply personal(個人的な事情)』といった表現で、理由の不可解さや個人的な背景を婉曲的に伝える方が、大人の会話として適切です。特に欧米では、ビジネスシーンにおいて感情的な理由よりも論理的な説明が好まれる傾向があるため、言葉選びには注意が必要です。
"Irrational fear"自体は文法的に誤りではありませんが、日常会話ではより専門的なニュアンスを持つ "phobia" (恐怖症) を使う方が自然です。 "Irrational" は、論理的な根拠がないことを強調する際に使われますが、恐怖症は単なる論理の欠如ではなく、精神的な苦痛を伴う深刻な症状を指します。 日本語の『わけのわからない恐怖』を安易に "irrational" と訳すのではなく、恐怖の度合いや文脈に応じて適切な単語を選ぶことが重要です。また、医学的な文脈ではphobiaが適切です。
"Irrational" は、文字通り「理性がない」という意味合いが強く、人の行動や期待に対して使うと、相手を強く批判するような印象を与えかねません。ここでは、謝罪を期待することが「非現実的」であることを伝えたいので、より穏やかな "unrealistic" を使う方が適切です。日本語の『無理だよ』というニュアンスを "irrational" で表現しようとすると、相手に不快感を与えてしまう可能性があります。文化的な背景として、直接的な批判を避け、婉曲的な表現を好む傾向があるため、言葉選びには注意が必要です。
文化的背景
「irrational(不合理な)」という言葉は、しばしば理性中心主義的な価値観が支配する社会において、異質なもの、あるいは脅威として認識される存在や考え方を指し示すために用いられてきました。それは、啓蒙思想以降の西欧社会において、理性こそが人間を人間たらしめるものであり、社会の進歩を導く原動力であるという信念が根強く存在したからです。
例えば、18世紀の狂気(madness)の研究においては、「irrational」は単なる精神疾患の症状としてだけでなく、社会秩序を乱すものとして扱われました。ミシェル・フーコーは著書『狂気の歴史』で、狂人が社会から隔離され、監禁されるようになった背景には、理性的な社会規範からの逸脱に対する恐れがあったことを指摘しています。狂気は、理性的な思考や行動ができない状態、すなわち「irrational」な状態とみなされ、社会の安定を脅かす存在として排除されたのです。
また、文学作品においても、「irrational」はしばしば人間の深層心理や感情の奔流を描写するために用いられます。例えば、ロマン主義の文学においては、理性よりも感情や直感を重視する傾向があり、「irrational」な行動や感情が、人間の本質的な部分を表現するものとして肯定的に描かれることもありました。エミリー・ブロンテの『嵐が丘』のヒースクリフの復讐心や情熱は、社会的な規範や理性では説明できない「irrational」な感情の表れであり、読者に強烈な印象を与えます。このように、「irrational」は、人間の複雑な内面や、社会の規範からの逸脱を描き出すための重要な要素として、文学作品において多用されてきました。
現代社会においても、「irrational」は、経済行動や政治的選択など、様々な場面で用いられます。例えば、行動経済学においては、人間は必ずしも合理的な判断をするとは限らず、「irrational」な行動をとることが明らかにされています。また、政治においては、感情的な訴えかけやデマが広がりやすく、理性的な議論よりも「irrational」な感情が世論を左右することがあります。このように、「irrational」は、現代社会の複雑さを理解するための重要なキーワードとして、様々な分野で注目されています。それは、私たちが理性だけでは捉えきれない人間の側面や、社会の構造的な問題を認識するための手がかりとなるからです。
試験傾向
準1級、1級で語彙問題や長文読解で出題される可能性があります。形容詞として「非合理的な」という意味で使われることが多く、派生語のirrationally(副詞)やirrationality(名詞)も合わせて覚えておきましょう。文脈から意味を推測する練習も重要です。
TOEICでは、irrationalが直接問われることは比較的少ないですが、関連語句や同意表現がビジネス文書や会話の中で使われることがあります。例えば、irrational behavior(非合理的な行動)などのフレーズで登場する可能性があります。Part 5, 6, 7の読解問題に注意してください。
TOEFLのリーディングセクションで、irrationalはアカデミックな文脈で登場する可能性があります。特に心理学、社会学、経済学などの分野で、人間の行動や意思決定の非合理性を説明する際に使われることがあります。同意語や反意語(rational)も覚えておきましょう。
大学受験の長文読解問題で、irrationalは難易度の高い単語として登場する可能性があります。文脈理解が重要で、単語の意味だけでなく、文章全体のテーマや筆者の主張を把握する必要があります。irrational number(無理数)という数学用語も覚えておくと役立つかもしれません。