deterrence
抑止力
相手が行動を起こすのを思いとどまらせる力。軍事的な文脈で、攻撃を未然に防ぐために持つ軍備や外交努力などを指すことが多い。単に脅すだけでなく、実際に相手に損害を与えられる能力と、それを行使する意思を示すことが重要。
A strong army is important for the deterrence of war.
強い軍隊は戦争の抑止力として重要です。
※ 国が平和を保つために、どれだけ真剣に考えているかが伝わる例文です。戦争を防ぐための「抑止力」という言葉が、国の安全保障政策でよく使われる、最も典型的な場面を描写しています。'for the deterrence of X' は「Xを抑止するために」という形で、この単語がよく使われるパターンです。
The fence acts as a good deterrence against the dog running away.
そのフェンスは犬が逃げ出すことに対する良い抑止力として機能します。
※ 大切なペットがどこかへ行ってしまわないように、飼い主が工夫している様子が目に浮かびます。「柵」が物理的な「抑止力」として働く、日常生活の中での具体的な例です。'act as deterrence against X' は「Xに対する抑止力として機能する」というように、具体的なモノが抑止力になる場合によく使われます。
Security cameras provide a strong deterrence against shoplifting in the store.
防犯カメラは店での万引きに対する強力な抑止力となります。
※ 店主が、お店の安全を守り、お客様が安心して買い物できる環境を作ろうと努力している様子が伝わります。目に見える「防犯カメラ」が、悪いことをしようとする人への心理的な「抑止力」として働く、社会的な場面での典型的な例です。'provide deterrence against X' は「Xに対する抑止力を提供する」という意味で、何かが抑止力となる状況で使われます。
阻止
何か悪いこと、好ましくないことが起こるのを事前に食い止めること。犯罪の抑止、事故の抑止など、幅広い分野で使われる。単に止めるだけでなく、発生を予防するニュアンスを含む。
Our new security camera acts as a good deterrence against potential thieves.
私たちの新しい防犯カメラは、泥棒志望者にとって良い抑止力になります。
※ この文では、防犯カメラが「泥棒を防ぐ」具体的な役割を担っている情景が目に浮かびます。家を守るための物理的な「阻止」の力として、'deterrence'が使われています。'acts as a deterrence' は「抑止力として機能する」という典型的なフレーズです。
The clear signs in the park are a strong deterrence against littering.
公園にあるはっきりした看板は、ごみ捨てに対する強力な抑止力です。
※ 公園で「ゴミを捨てないでください」という大きな看板が、人々にルールを守らせる心理的な「阻止」の力を発揮している場面です。'against littering'(ごみ捨てに反対する)のように、'deterrence against + 行為' で、特定の行動を阻止する意味合いを強調できます。
Strict rules at school serve as a deterrence to stop students from cheating.
学校の厳しい規則は、生徒がカンニングをするのを防ぐ抑止力として機能します。
※ この文では、学校の規則が、生徒が不正行為(カンニング)をするのを「阻止」する役割を果たしている様子が描かれています。'serve as a deterrence' も「抑止力として役立つ」という自然な表現です。具体的な行動(カンニング)を防ぐために、規則が心理的な圧力をかけているイメージが伝わります。
コロケーション
核抑止力
※ 核兵器の使用を思いとどまらせるための抑止力。冷戦時代から国際政治における重要な概念です。単に核兵器を保有するだけでなく、「報復能力」を示すことが抑止力として機能します。例えば、「mutual assured destruction (MAD)」(相互確証破壊)という戦略は、双方が核攻撃を受けた場合、報復攻撃によって相手国も壊滅させる能力を持つことで、先制攻撃を抑止するという考え方です。軍事・外交の専門用語であり、日常会話ではあまり使いません。
犯罪抑止
※ 犯罪を未然に防ぐための対策や取り組み。警察のパトロール強化、防犯カメラの設置、刑罰の厳罰化などが含まれます。「deterrent effect」(抑止効果)という言葉もよく使われます。経済学的な視点からは、犯罪を「合理的な選択」と捉え、犯罪による利益よりもコスト(逮捕のリスク、刑罰など)を高めることで、犯罪を抑制するという考え方があります。社会学、犯罪学の分野で頻繁に使われる表現です。
抑止政策
※ 特定の行動(通常は敵対的な行動)を思いとどまらせるために政府や組織が採用する戦略。軍事的な抑止力だけでなく、経済制裁や外交的な圧力も含まれます。成功するためには、相手に「もし~したら、こうなる」という明確なメッセージを伝え、そのメッセージが信頼できる必要があります。外交、安全保障の分野で重要な概念です。歴史的な文脈では、冷戦時代の米ソ間の関係を理解する上で欠かせません。
抑止力を維持する
※ 抑止力を効果的に機能させるためには、常にその能力を維持・強化する必要があります。そのためには、軍事力の近代化、情報収集能力の向上、同盟国との連携強化などが求められます。また、相手に誤解を与えないように、自国の意図を明確に伝えることも重要です。軍事戦略、安全保障の議論でよく用いられる表現です。例えば、「a credible deterrence」は「信頼できる抑止力」という意味になります。
抑止力となる
※ 自国の軍事力や外交的な影響力が、他国に対する抑止力として機能することを指します。例えば、「The presence of a strong military provides deterrence against potential aggressors.」(強力な軍隊の存在は、潜在的な侵略者に対する抑止力となる。)のように使います。国際関係において、自国の安全保障を確保するための重要な要素です。ニュース記事や政策文書でよく見られる表現です。
抑止力の重要な要素
※ 抑止力を構成する上で欠かせない要素。例えば、軍事力、経済力、外交力、情報力などが挙げられます。「Credibility (信頼性)」も非常に重要な要素であり、相手に「本気で実行する」と思わせる必要があります。安全保障に関する議論でよく用いられます。例えば、「Maintaining a strong alliance is a key element of deterrence.」(強力な同盟関係を維持することは、抑止力の重要な要素である。)のように使います。
抑止力が崩壊する
※ 何らかの理由で抑止力が機能しなくなる状態。誤解、計算違い、技術的な問題、政治的な不安定などが原因となり得ます。抑止力の崩壊は、紛争や戦争につながる可能性があり、国際社会にとって深刻な脅威となります。安全保障、国際政治の分野で重要な概念です。例えば、「A failure to communicate intentions can break down deterrence.」(意図の伝達の失敗は、抑止力を崩壊させる可能性がある。)のように使います。
使用シーン
国際関係論、政治学、軍事学などの分野で、国家間の関係や安全保障戦略を議論する際に頻繁に用いられます。「核抑止力」や「相互確証破壊」などの概念を説明する文脈で登場します。論文や学術書、講義などで、専門的な議論を行う際に不可欠な語彙です。
ビジネスシーンでは、競争戦略やリスク管理の文脈で使われることがあります。例えば、新規参入企業の市場への参入を阻止する戦略や、競合他社の価格競争を抑止する戦略などを議論する際に用いられます。報告書やプレゼンテーション資料など、フォーマルな文書で使われることが多いです。
日常生活では、ニュース記事やドキュメンタリー番組などで、国際情勢や犯罪に関する報道に接する際に目にすることがあります。例えば、「犯罪抑止のために防犯カメラを設置する」といった文脈で使われることがあります。日常会話で使うことは稀ですが、社会問題に関心を持つ上で知っておくと役立つ語彙です。
関連語
類義語
『予防』や『防止』という意味で、事故、犯罪、病気などが起こるのを事前に防ぐことを指す。幅広い状況で使用可能。 【ニュアンスの違い】『deterrence』は、脅威や報復の可能性によって相手の行動を抑制するニュアンスがあるのに対し、『prevention』は、より一般的な意味で、何かが起こるのを防ぐための措置を指す。感情的な要素や、相手への働きかけというニュアンスは薄い。 【混同しやすい点】『deterrence』が抑止力という概念に特化しているのに対し、『prevention』は原因を取り除く、環境を改善するなど、より広範な対策を含む点。犯罪抑止を『crime prevention』とは言うが、『crime deterrence』とはあまり言わない。
- discouragement
『落胆』や『意気消沈』という意味の他に、『思いとどまらせること』という意味も持つ。行動を思いとどまらせる、やる気をなくさせるという意味合いが強い。 【ニュアンスの違い】『deterrence』が、脅威や報復によって行動を抑制するのに対し、『discouragement』は、困難さやリスクを強調することで、行動する気を失わせるというニュアンス。必ずしも脅威を伴わない。 【混同しやすい点】『deterrence』が、相手の行動を物理的または政治的に抑止するのに対し、『discouragement』は心理的に作用する点。例えば、厳しい訓練は兵士の脱走を『discourage』するが、『deter』とは言わない。
『妨げ』や『障害』という意味。何かの進行や達成を遅らせたり、妨げたりするものを指す。物理的なもの、抽象的なもの両方に使える。 【ニュアンスの違い】『deterrence』が、意図的に相手の行動を抑止するのに対し、『hindrance』は、意図的であるかどうかにかかわらず、結果として行動を妨げるものを指す。自然災害や、単なる不注意も『hindrance』になりうる。 【混同しやすい点】『deterrence』は、相手の行動を事前に防ぐことを目的とするが、『hindrance』は、行動がすでに始まっている場合に、その進行を妨げるという点。交通渋滞は旅行の『hindrance』だが、『deterrence』とは言えない。
『抑制』や『自制』という意味。感情、行動、欲望などを抑えることを指す。フォーマルな場面でよく使われる。 【ニュアンスの違い】『deterrence』が外部からの脅威によって行動を抑制されるのに対し、『restraint』は、自己の内面から湧き上がる衝動などを抑えるというニュアンス。倫理観や道徳観に基づいた自制心を表すことが多い。 【混同しやすい点】『deterrence』が他者からの影響による抑制であるのに対し、『restraint』は自己による抑制であるという点。また、『restraint』は、物理的な拘束という意味も持つ(例:physical restraint)。
『脅迫』や『威嚇』という意味。恐怖や不安を与えて、相手を従わせようとする行為を指す。犯罪や暴力に関連する文脈でよく使われる。 【ニュアンスの違い】『deterrence』が、報復の可能性を示唆することで行動を抑制するのに対し、『intimidation』は、直接的な脅迫や暴力によって相手を屈服させようとするというニュアンス。より攻撃的で直接的な行為。 【混同しやすい点】『deterrence』が、必ずしも脅迫を伴わないのに対し、『intimidation』は常に脅迫を含むという点。また、『deterrence』は国家間の外交など、より広範な文脈で使用されるが、『intimidation』は個人間の関係や、犯罪行為において用いられることが多い。
- preclusion
『排除』や『妨害』という意味で、何かを不可能にしたり、起こらないようにしたりすることを指す。法律や契約などのフォーマルな文脈で使われることが多い。 【ニュアンスの違い】『deterrence』が、行動を思いとどまらせることを目的とするのに対し、『preclusion』は、行動自体を物理的または法的に不可能にするというニュアンス。より強固で絶対的な阻止。 【混同しやすい点】『deterrence』が、相手の自由意志に働きかけるのに対し、『preclusion』は、相手の意志に関わらず、行動の可能性を奪うという点。例えば、契約書に競業避止条項を設けることは、競業行為の『preclusion』となる。
派生語
『抑止する』という動詞。「deterrence」の直接的な動詞形であり、語源を共有する。脅しや障害によって行動を思いとどまらせる意味合いが強く、犯罪抑止や紛争回避などの文脈で頻繁に用いられる。ビジネスシーンや政策議論でも見られる。
『抑止するもの』という意味の名詞、または『抑止力のある』という意味の形容詞。「deter」に接尾辞「-ent」が付加され、名詞または形容詞として機能する。核抑止力(nuclear deterrent)のように、具体的な抑止手段や戦略を指す場合に使われる。学術論文や軍事関連のニュースでよく見られる。
- undeterred
『ひるまない』、『くじけない』という意味の形容詞。「deter」に否定の接頭辞「un-」と過去分詞形を示す「-ed」が付いた形。困難や脅威にも関わらず、目標に向かって進む様子を表す。報道記事や文学作品など、幅広い文脈で使用される。
反意語
『励まし』、『奨励』という意味の名詞。「deterrence」が行動を抑制するのに対し、「encouragement」は行動を促す。ビジネスや教育の現場で、積極的な行動を促す際に用いられる。心理学や人材育成に関する文脈でも頻繁に登場する。
『誘因』、『動機』という意味の名詞。「deterrence」が行動を抑制する要因を取り除くのに対し、「inducement」は行動を起こさせるための誘因を提供する。経済学やマーケティングの分野で、消費者の行動を促す要因として分析される。
『挑発』という意味の名詞。「deterrence」が紛争などを抑止するのに対し、「provocation」は紛争を引き起こす可能性のある行為を指す。外交や国際関係の文脈で、緊張を高める行為として議論される。
語源
"Deterrence(抑止力)"は、ラテン語の"deterrēre"に由来します。これは"de-"(~から離れて)と"terrēre"(怖がらせる)が組み合わさった言葉で、「恐怖によって思いとどまらせる」という意味合いを持ちます。つまり、何かをしようとする人を、恐怖心を与えることで阻止する、または思いとどまらせる行為を指します。日本語で例えるなら、「睨みを利かせる」という表現が近いかもしれません。相手に危害を加えることを示唆し、それによって行動を抑制させるイメージです。この語源からも、"deterrence"が単に何かを止めるだけでなく、恐怖という心理的な要素を利用して阻止する力であることを理解できます。
暗記法
「抑止」は、冷戦時代の核兵器による相互確証破壊(MAD)という、恐ろしい均衡から生まれた言葉です。互いを滅ぼせる力を持つ国々が、その力を行使しないように牽制し合う状態を指します。MADの狂気を描いた映画『博士の異常な愛情』は、その象徴です。現代では軍事だけでなく、犯罪や不正行為、サイバー攻撃など、多様な脅威に対する抑止戦略が求められています。平和と安全を深く考えさせる、重みのある言葉なのです。
混同しやすい単語
『deterrence』と『deterrent』は、語尾が '-ence' (名詞) なのか '-ent' (形容詞) なのかの違いで、発音も非常に似ています。意味は、deterrenceが『抑止(力)』という名詞であるのに対し、deterrentは『抑止する』という意味の形容詞、または『抑止するもの』という意味の名詞です。日本人学習者は、文脈に応じて品詞を意識し、語尾の発音を区別するように注意する必要があります。deterrenceは抽象的な概念を指し、deterrentは具体的な手段や効果を指すことが多いです。
『deterrence』と『difference』は、どちらも'-ence'で終わる名詞であり、発音の最初の部分が似ているため、特に聞き取りの際に混同しやすいです。differenceは『違い』という意味で、deterrenceとは全く異なる概念を表します。日本人学習者は、文脈から意味を判断し、発音の最初の部分を意識して聞き分ける必要があります。また、differenceはしばしば'a difference'や'the difference'のように冠詞を伴って使われることが多いことも、区別のヒントになります。
『deterrence』と『entrance』は、どちらも'-ence'で終わる名詞で、発音のリズムが似ているため、特に会話の中で聞き間違えやすいです。entranceは『入り口』や『入学』という意味で、deterrenceとは意味が大きく異なります。日本人学習者は、文脈から意味を判断し、単語全体の形を意識して区別する必要があります。entranceは具体的な場所や行為を指すことが多いのに対し、deterrenceは抽象的な概念を指すことが多いです。
『deterrence』と『occurrence』は、どちらも複数音節で'-ence'で終わる名詞であり、語尾が同じであるため、発音の全体的な印象が似ています。occurrenceは『出来事』や『発生』という意味で、deterrenceとは意味が異なります。日本人学習者は、文脈から意味を判断し、単語の最初の部分の発音を意識して区別する必要があります。occurrenceはしばしば特定の出来事や状況を指すのに対し、deterrenceは一般的な抑止の概念を指します。
『deterrence』と『defiance』は、どちらも'-ence'で終わる名詞であり、発音の後半部分が似ているため、特に早口で話される場合に聞き間違えやすいです。defianceは『反抗』や『挑戦』という意味で、deterrenceとは意味が異なります。日本人学習者は、文脈から意味を判断し、単語の最初の部分の発音を意識して区別する必要があります。defianceはしばしば具体的な行動や態度を伴うのに対し、deterrenceは潜在的な抑止力を指します。
『deterrence』と『adherence』は、どちらも複数音節で'-ence'で終わる名詞であり、語尾が同じであるため、発音の全体的な印象が似ています。adherenceは『固守』や『執着』という意味で、deterrenceとは意味が異なります。日本人学習者は、文脈から意味を判断し、単語の最初の部分の発音を意識して区別する必要があります。adherenceはしばしば規則や信念に対する従順さを指すのに対し、deterrenceは抑止力という概念を指します。
誤用例
『deterrence』は名詞であり、抑止 *そのもの* を指します。ここでは『抑止力として *機能した* 』というニュアンスを出したいため、謝罪が『deterrent(抑止するもの)』として作用した、という言い方が適切です。日本語では『〜は抑止力になった』のように言えるため、つい名詞のまま使ってしまいがちですが、英語では動詞を伴って『act as a deterrent』のように表現する方が自然です。これは、日本語が名詞を多用する言語であるのに対し、英語は動詞を重視する言語であることにも起因します。
『deterrence』は不可算名詞であり、漠然とした『抑止』という概念を指します。具体的な抑止 *手段* や *要因* が必要な場合は、可算名詞である『deterrent』を使うのが適切です。例えば、犯罪を抑止するためには、より厳しい法律や警察の監視といった具体的な『抑止するもの(deterrent)』が必要になります。日本語の『抑止力が必要だ』という表現を直訳すると、つい『deterrence』を使ってしまいがちですが、英語では具体性に焦点を当てて『deterrent』を選ぶ方が、より明確で効果的なコミュニケーションにつながります。
『deterrence』、特に『nuclear deterrence(核抑止)』は、非常に複雑で多角的な議論を要する概念です。『良いこと』と断定的に表現すると、その背後にある倫理的、政治的、軍事的リスクを無視していると解釈される可能性があります。教養ある大人の会話では、一方的な見方を避け、『complex issue』や『both benefits and risks』といった表現を用いて、多角的な視点を示すことが重要です。これは、欧米の議論文化において、安易な断定を避け、批判的な思考を促す姿勢が重視されるためです。特に、核兵器のようなデリケートな話題においては、慎重な言葉選びが不可欠です。
文化的背景
「抑止(deterrence)」という言葉は、単なる行為の阻止を超え、国家間のパワーバランス、恐怖、そして信頼の欠如が複雑に絡み合った冷戦時代の遺産を象徴します。核兵器の登場以降、人類は互いを滅ぼしうる力を持ちながら、その使用を互いに「抑止」するという奇妙な均衡状態を経験してきました。この概念は、国際政治の舞台において、常に潜在的な破滅を背景とした緊張感と、それを回避しようとする戦略的思考を内包しています。
冷戦時代、米ソ両国は核兵器を相互に「抑止力」として利用し、直接的な軍事衝突を回避しようとしました。この「相互確証破壊(Mutual Assured Destruction, MAD)」と呼ばれる戦略は、相手国を攻撃すれば自国も確実に壊滅するという認識に基づき、核戦争の勃発を抑え込むものでした。しかし、この戦略は同時に、誤算や偶発的な事故による核戦争のリスクを常に孕んでおり、世界は破滅の淵に立たされているという感覚を人々に植え付けました。映画『博士の異常な愛情』は、このMADの狂気と、それがいかにして人類を滅亡の危機に晒すかを風刺的に描き出しています。
「抑止」は、単に軍事的な文脈に留まらず、社会の様々な場面でも見られます。例えば、犯罪抑止のための警察の存在、企業の不正行為抑止のための内部統制システム、あるいは、個人の行動における倫理観や道徳観念なども、広義の「抑止力」と言えるでしょう。しかし、これらの「抑止力」は、核抑止のような絶対的なものではなく、常に破られる可能性を秘めています。そのため、社会は常に「抑止力」を強化し、その効果を高めるための努力を続けていく必要があります。
現代においては、サイバー攻撃やテロリズムといった新たな脅威が登場し、「抑止」の概念はより複雑化しています。従来の軍事力による「抑止」だけでなく、経済制裁、外交的圧力、情報戦など、多様な手段を組み合わせた総合的な「抑止戦略」が求められています。しかし、これらの新たな脅威に対して、どのような「抑止力」が有効なのか、まだ十分なコンセンサスは得られていません。「抑止」という言葉は、常に変化する国際情勢や社会状況の中で、その意味と適用範囲を拡大し続けており、私たちに平和と安全について深く考えさせる概念なのです。
試験傾向
主に準1級・1級の長文読解で出題される可能性があります。1級では語彙問題で類義語・派生語の知識も問われることがあります。
1. **出題形式**: 長文読解、語彙問題
2. **頻度と級・パート**: 準1級・1級
3. **文脈・例題の特徴**: 社会問題、国際関係、政治経済など硬めのテーマが多い。
4. **学習者への注意点・アドバイス**: 「抑止力」という意味だけでなく、関連する動詞(deter)や形容詞(deterrent)も覚え、文脈に応じた適切な意味を理解することが重要です。
TOEICでは、この単語が直接問われることは比較的少ないですが、ビジネス文書やニュース記事を扱った長文読解問題で、背景知識として理解しておくことが望ましいです。
1. **出題形式**: 長文読解(Part 7)
2. **頻度と級・パート**: まれにPart 7で登場
3. **文脈・例題の特徴**: 契約、訴訟、リスク管理など、ビジネスに関連する文脈で使用される可能性があります。
4. **学習者への注意点・アドバイス**: TOEIC対策としては、直接的な語彙問題対策よりも、長文読解における背景知識として捉え、文脈から意味を推測できるように練習することが効果的です。
TOEFL iBTのリーディングセクションで、アカデミックな文章の中で出題される可能性があります。特に、社会科学、政治学、国際関係などの分野でよく見られます。
1. **出題形式**: リーディング(長文読解)
2. **頻度と級・パート**: リーディングセクション
3. **文脈・例題の特徴**: 政治、経済、社会問題に関する議論で、理論や政策の説明に用いられることが多い。
4. **学習者への注意点・アドバイス**: 単語の意味を暗記するだけでなく、文章全体における役割(例:ある政策の有効性を示す根拠)を理解することが重要です。また、類義語や反意語も合わせて学習することで、より深い理解につながります。
難関大学の入試問題の長文読解で出題される可能性があります。社会科学系のテーマ(国際関係、政治、経済など)でよく見られます。
1. **出題形式**: 長文読解
2. **頻度と級・パート**: 難関大学の入試問題
3. **文脈・例題の特徴**: 論文や評論など、アカデミックな文章で使われることが多い。
4. **学習者への注意点・アドバイス**: 文脈の中で正確に意味を把握することが重要です。また、関連語(deter, deterrent)も覚えておくと役立ちます。記述問題では、文脈に即した日本語で「抑止力」の意味を説明できるように練習しましょう。