このページは、歴史や文化の物語を楽しみながら、その文脈の中で重要な英単語を自然に学ぶための学習コンテンツです。背景知識を日本語で学んだ後、英語の本文を読むことで、より深い理解と語彙力の向上を目指します。

明るい・暗いといった「調性」から音楽を解放し、12の音を平等に扱う無調音楽へ。現代音楽のfoundation(基礎)を築いた、難解な理論。
この記事で抑えるべきポイント
- ✓西洋音楽の根幹をなしてきた「調性」とは、特定の音(主音)を中心とした音の階層構造(ヒエラルキー)であり、それが音楽に安定感や「明るい」「暗い」といった性格を与えてきたという点。
- ✓20世紀初頭、後期ロマン派音楽の複雑化により調性が限界を迎える中、アルノルト・シェーンベルクが、調性から音楽を解放する「無調音楽」を試みたという歴史的経緯。
- ✓「十二音技法」とは、無調音楽に新たな秩序を与えるために考案された作曲技法であり、1オクターブ内の12の音を平等に扱い、特定の音が支配的になることを避けるという規則性を持つ点。
- ✓シェーンベルクの試みは、すぐには大衆に受け入れられなかったものの、その後のセリエル音楽など現代音楽の潮流に大きな影響を与え、音楽史における一つの革命と見なされている点。
音楽を支配する秩序 ―「調性」という引力
クラシックからポップスまで、私たちが親しんでいる音楽の多くは、「調性(tonality)」という考え方に基づいています。これは、特定の音(主音)が中心となり、他の音との間に明確な関係性が存在する状態を指します。例えばハ長調なら「ド」の音が中心です。他の音は、まるで惑星が太陽の引力に引かれるように、中心である主音へと解決しようとする性質を持ちます。この音の階層(hierarchy)こそが、音楽に安定感や方向性を与え、「明るい」「暗い」といった色彩感や物語性を生み出す源泉なのです。
The Order That Governs Music: The Gravitational Pull of "Tonality"
Most of the music we are familiar with, from classical to pop, is based on the concept of "tonality." This refers to a state where a specific note (the tonic) serves as the center, and clear relationships exist with other notes. For example, in C major, the note "C" is the center. Other notes tend to resolve towards this central tonic, much like planets are drawn by the sun's gravity. This hierarchy of notes is what gives music its sense of stability and direction, creating its color and narrative, such as feeling "bright" or "dark."
調性の黄昏 ― なぜ秩序は破壊される必要があったのか?
しかし、19世紀末になると、この盤石に見えた秩序に陰りが見え始めます。リヒャルト・ワーグナーに代表される後期ロマン派の音楽家たちは、より複雑で感情的な表現を追求するあまり、頻繁な転調や複雑な和音を多用しました。その結果、どの音が中心なのかが極めて曖昧になり、調性感は希薄になっていきました。これは「調性の崩壊」とも呼ばれる現象であり、伝統的な手法ではもはや新しい表現を生み出すことが困難であるという時代の必然でした。この行き詰まりこそが、アルノルト・シェーンベルクのような、全く新しい音楽言語を求める作曲家が登場する土壌となったのです。
The Twilight of Tonality: Why Did the Order Need to Be Destroyed?
However, by the end of the 19th century, this seemingly unshakable order began to show signs of decline. Late Romantic composers, typified by Richard Wagner, pursued more complex and emotional expression, leading them to use frequent modulations and intricate chords. As a result, the sense of a central key became extremely ambiguous, and the feeling of tonality grew weak. This phenomenon, sometimes called the "collapse of tonality," was a historical inevitability, signaling that it was no longer possible to create new expressions with traditional methods. This impasse created the fertile ground for composers like Arnold Schoenberg, who sought a completely new musical language.
不協和音の解放へ ― 無調音楽と「十二音技法」の誕生
シェーンベルクが次なる一歩として踏み出したのが、調性という引力から完全に自由になった「無調(atonality)」の音楽でした。そこでは、中心音は存在せず、すべての音は平等に扱われます。しかし、完全な自由は一歩間違えれば混沌につながりかねません。秩序なき世界でいかに音楽を構築するか。この課題に対する彼の答えが、「十二音技法(twelve-tone technique)」でした。これは、1オクターブに含まれる12の音(ド、ド#、レ…)を、重複させることなく一度ずつ使って音列を作り、それを基に音楽を展開するという画期的な作曲(composition)のルールです。これにより、特定の音が支配的になることを構造的に防ぎ、無調音楽に新たな論理と秩序をもたらしたのです。
Towards the Emancipation of Dissonance: The Birth of Atonality and the "Twelve-Tone Technique"
Schoenberg's next step was to create "atonality," music completely free from the gravitational pull of tonality. In it, there is no central key; all notes are treated equally. However, complete freedom can easily lead to chaos. How could one construct music in a world without order? His answer to this challenge was the "twelve-tone technique." This was a groundbreaking method of composition where a tone row is created using all 12 notes of the octave (C, C#, D, etc.) once without repetition, and the music is developed based on this row. This structurally prevented any single note from becoming dominant, bringing a new logic and order to atonal music.
難解さの先にあるもの ― 現代音楽の礎を築いた革命
シェーンベルクの音楽は、発表当時から「不協和音(dissonance)だらけで難解だ」という批判にさらされました。心地よい解決を約束してくれないその響きは、多くの聴衆を戸惑わせたのです。しかし、彼の試みは西洋音楽史における真の革命(revolution)でした。調性という数百年続いた大原則を根底から覆し、「協和音と不協和音の解放(emancipation)」を成し遂げたのです。この思想は、すぐには大衆に受け入れられなかったものの、ピエール・ブーレーズやカールハインツ・シュトックハウゼンといった後の世代の作曲家たちに計り知れない影響を与え、セリエル音楽をはじめとする現代音楽の重要な礎(foundation)となりました。
Beyond Complexity: The Revolution That Laid the Foundation for Modern Music
From its debut, Schoenberg's music was criticized as being "full of dissonance" and "difficult to understand." Its sound, which offered no promise of a pleasant resolution, perplexed many audiences. However, his attempt was a true revolution in the history of Western music. He fundamentally overturned the grand principle of tonality that had lasted for centuries and achieved the "emancipation of dissonance." While not immediately embraced by the public, this idea had an immeasurable impact on later generations of composers, such as Pierre Boulez and Karlheinz Stockhausen, and became a crucial foundation for modern music, including serialism.
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テーマを理解する重要単語
revolution
シェーンベルクの業績が西洋音楽史においてどれほど大きな出来事であったかを強調する単語です。「改革(reform)」よりも抜本的な「革命」という言葉が使われることで、彼が調性という数百年続いた大原則を根底から覆したという事実の重みが伝わります。
文脈での用例:
The industrial revolution changed the course of human history.
産業革命は人類の歴史の流れを変えました。
composition
音楽の文脈では「作曲」を意味しますが、より広く「構成」や「組み立て」のニュアンスも持ちます。十二音技法が、単なる思いつきではなく、12の音をどう配置するかという極めて論理的な「作曲のルール」であったことを示唆する単語です。
文脈での用例:
The chemical composition of water is two parts hydrogen and one part oxygen.
水の化学組成は水素2、酸素1です。
foundation
シェーンベルクの音楽が、すぐには大衆に受け入れられなかったものの、後の世代の作曲家たちに与えた影響の大きさを物語る単語です。彼の革命的な思想が、セリエル音楽をはじめとする「現代音楽の礎」となったことを示し、その歴史的意義を強調しています。
文脈での用例:
Trust is the foundation of any strong relationship.
信頼はあらゆる強い関係の基礎です。
hierarchy
調性音楽における「音の階層」を説明するために使われています。主音を頂点とし、他の音がそれに従属するピラミッド構造を指します。この階層構造こそが音楽に安定感を与える源泉であり、シェーンベルクが破壊しようとした対象でした。
文脈での用例:
The myth of Purusha justified a rigid social hierarchy with the priests at the top.
プルシャの神話は、司祭を頂点とする厳格な社会階層制を正当化しました。
quest
記事の結びで、シェーンベルクの試みを「芸術家の根源的な探求」と表現するために使われています。単なる「search」ではなく、より壮大で困難な目標を目指す旅路というニュアンスを持ち、既存の価値観を疑い新たな表現を切り拓いた彼の姿勢を的確に表しています。
文脈での用例:
His life was a quest for knowledge and truth.
彼の人生は知識と真理の探求でした。
revolutionary
シェーンベルクの試みが、単なる新しい作曲技法に留まらず、数百年続いた西洋音楽の常識を根底から覆す「革命」であったことを示す形容詞です。この記事では、彼の挑戦の歴史的なインパクトの大きさをこの単語が象徴しています。
文脈での用例:
The invention of the internet was a revolutionary development in communication.
インターネットの発明は、コミュニケーションにおける革命的な発展でした。
emancipation
「不協和音の解放」という、シェーンベルクの思想の核心を表す重要な単語です。従来、協和音に従属する不安定な存在と見なされてきた不協和音を、その束縛から解き放ち、表現の手段として対等な地位を与えた彼の功績を力強く示しています。
文脈での用例:
The Emancipation Proclamation declared that all slaves in the Confederate states were free.
奴隷解放宣言は、南部連合の全ての奴隷が自由であることを宣言した。
dissonance
シェーンベルクの音楽が発表当時に「難解だ」と批判された理由を具体的に示す音楽用語です。心地よく解決しない「不協和音」は、従来の音楽の常識を覆すものでした。彼の試みは、この不協和音を協和音と対等なものとして「解放」することにありました。
文脈での用例:
There was a noticeable dissonance between his words and his actions.
彼の言葉と行動の間には、著しい不一致があった。
tonality
この記事の根幹をなす最重要単語です。クラシックからポップスまで、私たちが慣れ親しんだ音楽の安定感や物語性が「調性」によっていかに支えられているかを理解することが、シェーンベルクの革命の意義を把握する第一歩となります。
文脈での用例:
The composer is known for his masterful use of tonality to create emotional depth.
その作曲家は、感情的な深みを生み出すための見事な調性の使い方で知られている。
inevitability
「調性の崩壊」が単なる偶然や一部の作曲家の気まぐれではなく、「時代の必然」であったことを示す重要な単語です。後期ロマン派による表現の追求が行き着く先として、伝統的な手法の限界が訪れたという、歴史の流れを理解する上で鍵となります。
文脈での用例:
She spoke with a sense of inevitability about her decision to move abroad.
彼女は海外移住の決断について、それが避けられないことであるかのように語った。
impasse
19世紀末の音楽界が直面した「行き詰まり」を表現する単語です。従来の調性音楽の枠組みでは、もはや新しい表現を生み出すことが困難になった状況を指します。この創造的な袋小路こそが、シェーンベルクのような革新者を登場させる土壌となりました。
文脈での用例:
The negotiations reached an impasse, with neither side willing to compromise.
交渉は行き詰まり、どちら側も妥協する気はなかった。
atonality
「tonality(調性)」に否定の接頭辞「a-」がついた単語で、シェーンベルクが踏み出した「無調音楽」を指します。中心となる音や調を意図的に排除し、全ての音を平等に扱うという思想を理解することは、彼の音楽の本質に迫る上で不可欠です。
文脈での用例:
Atonality in music can be challenging for listeners accustomed to traditional harmonies.
音楽における無調性は、伝統的な和声に慣れた聴衆にとっては難解な場合がある。