英単語学習ラボ

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古代ギリシャの哲学者タレスと水の波紋
古代ギリシャ・ローマ哲学

タレスと「万物の根源は水である」― 哲学の最初の一歩

難易度: ★★☆ 想定学習時間: 約 6 対象単語数: 12

なぜ彼は「最初の哲学者」と呼ばれるのか。神話(ミュトス)から理性(ロゴス)へ、世界の根源を探求し始めた古代ギリシャの知の夜明けを学びます。

この記事で抑えるべきポイント

  • タレスが「最初の哲学者」と呼ばれる理由は、世界の成り立ちを神話(ミュトス)ではなく、自らの観察と理性(ロゴス)に基づいて説明しようとした最初の人物の一人とされるためです。
  • 哲学の誕生は、世界の事象を神々の物語で説明する「ミュトス」から、論理的な言葉で探求する「ロゴス」への知的な転換点であったという側面があります。
  • 「万物の根源(アルケー)は水である」という主張の革新性は、答えそのものよりも、多様な世界が単一の根源物質から成るという「一元論」的な視点を提示した点にあるとされています。
  • タレスが立てた「万物は何からできているのか?」という根源的な問いそのものが、西洋哲学と自然科学の長い探求の歴史の第一歩となったと考えられています。

タレスと「万物の根源は水である」― 哲学の最初の一歩

約2600年前、古代ギリシャ。雷が轟けばゼウスが怒り、作物が育てば女神デメテルの恵みだと、人々が信じていた時代。世界のあらゆる出来事は、神々の壮大な物語によって説明されていました。そんな神話が常識だった世界に、一人の男が現れます。彼の名はタレス。彼は夜空の星を見上げ、足元の土を踏みしめ、そして問いかけました。「なぜ、世界はこのようになっているのだろう?」と。彼が導き出した「万物の根源は水である」という一見単純な答えが、なぜ人類の知の歴史における革命的な一歩と見なされるのか、その深遠な謎に迫ります。

神話が支配した世界 ― タレス以前の古代ギリシャ

タレスが登場する以前、古代ギリシャの人々の世界観は「ミュトス(mythos)」、すなわち神話によって形作られていました。季節の移り変わり、嵐の到来、生命の誕生と死。それらすべては、オリンポスの神々の意志や気まぐれな行動の結果として語られていました。この物語は人々の心を捉え、共同体に秩序を与えましたが、物事の根本的な原因を論理的に説明するものではありませんでした。世界は、理解する対象というより、畏怖し、受け入れるべき存在だったのです。

「なぜ?」という問いの誕生 ― 最初の哲学者タレス

ミレトスという活気ある港町で商人として、また天文学者として活躍したタレスは、この神話的な世界観に満足しませんでした。彼は、世界を説明するために神々の物語を持ち出すのではなく、自らの観察と「理性(reason)」を用いて、その背後にある法則を探ろうとしました。この、神話(ミュトス)から論理(ロゴス)へと舵を切った知的態度のゆえに、彼はアリストテレスによって「最初の「哲学者(philosopher)」」と呼ばれます。彼は、世界の真理を愛し、探求する道を切り拓いたのです。

「万物の根源(アルケー)は水である」― その真意とは?

タレスが歴史に名を刻んだ最も有名な主張が、「万物の「根源(origin)」は水である」というものです。なぜ彼は「水(water)」を選んだのでしょうか。生命は湿気なしには存在できず、あらゆる養分は液体に溶けています。また、水は氷(固体)、水(液体)、水蒸気(気体)と姿を変え、多様な性質を示します。しかし、この説の真の革新性は、「水」という答えそのものよりも、この世界が多様に見えながらも、実はたった一つの根源的な「物質(substance)」から成り立っている、という「一元論」的な視点を提示した点にあります。この根源物質を、ギリシャ語で「アルケー」と呼びます。

タレスが遺したもの ― 哲学と科学の夜明けへ

タレスの答えは、現代の科学から見れば素朴なものかもしれません。しかし、彼が立てた「万物は、何からできているのか?」という問いは、計り知れないほどの知的な「遺産(legacy)」となりました。彼の弟子であるアナクシマンドロスは師の説に異を唱え、「アルケーは無限なるもの(アペイロン)だ」と主張し、さらにその弟子は「空気だ」と論じました。このように、一つの問いに対して、観察と論理に基づいた批判と議論が重ねられていくプロセスが始まったのです。これは、後の西洋哲学、そして自然現象を合理的に説明しようとする自然科学の源流となりました。

結論

タレスの真の功績は、「水」という特定の答えを見つけたこと以上に、「万物の根源とは何か?」という、それまで誰も問わなかった根源的な問いを立てたことにあります。そして、その答えを神々の物語に求めるのではなく、自らの理性と観察を信じて粘り強く考え抜こうとする「探求(inquiry)」の精神を人類に示しました。この「なぜ?」と問い続ける姿勢こそが、哲学の原点であり、2600年の時を超えて、今を生きる私たちの知的好奇心へとまっすぐに繋がっているのです。

テーマを理解する重要単語

reason

/ˈriːzən/
名詞理由
名詞理性
動詞論じる

神話に頼らず、世界の法則を探るためにタレスが用いた知的態度の中核です。この記事では、神々の物語ではなく、自らの観察と「理性」で世界を理解しようとしたタレスの姿勢が、哲学と科学の幕開けとなったと述べられています。神話(myth)との対比でその重要性が際立ちます。

文脈での用例:

Humans are distinguished from other animals by their ability to reason.

人間は理性的に思考する能力によって他の動物と区別される。

substance

/ˈsʌbstəns/
名詞中身
名詞財産
名詞薬物

タレスの「万物は一つの根源的な物質から成る」という考え方を理解する上で欠かせない単語です。彼が提唱した「アルケー(根源)」とは、まさにこの「substance」を指します。多様に見える世界の背後にある、たった一つの本質的な存在を想定した彼の視点の革新性を読み解く鍵です。

文脈での用例:

Alchemists heated and mixed various substances to observe their changes.

錬金術師たちは様々な物質を加熱したり混ぜ合わせたりして、その変化を観察しました。

myth

/mɪθ/
名詞神話
名詞作り話

タレス以前の世界観「ミュトス」を指す言葉で、この記事の出発点となります。雷をゼウスの怒りとするような、物事を神々の物語で説明する世界観のことです。タレスが理性(reason)と論理(logos)へと舵を切る前の時代背景を理解するための鍵となる単語です。

文脈での用例:

It's a popular myth that carrots improve your eyesight.

ニンジンが視力を良くするというのは、広く信じられている作り話だ。

philosopher

/fɪˈlɒsəfər/
名詞哲学者
名詞賢人

この記事の主人公タレスの肩書であり、テーマそのものを表す単語です。語源は「知を愛する者」を意味し、神話の世界に「なぜ?」と問い、自らの理性で真理を探求しようとしたタレスの革新的な姿勢を象徴しています。彼が「最初の哲学者」と呼ばれる理由を理解する上で不可欠です。

文脈での用例:

Socrates is one of the most famous philosophers in Western history.

ソクラテスは西洋史において最も有名な哲学者のうちの一人です。

fundamental

/ˌfʌndəˈmɛntl/
形容詞根底にある
形容詞絶対的な
名詞基礎

タレスが「物事の根本的な原因」を探求したことを示す重要な形容詞です。彼は神話による表層的な説明に満足せず、世界の成り立ちのより本質的な原理を求めました。この単語は、物事の根っこを問うという、タレスに始まる哲学的な態度の核心を表しています。

文脈での用例:

A fundamental change in the company's strategy is needed.

その会社の方針には根本的な変更が必要だ。

phenomenon

/fəˈnɒmɪnən/
名詞現象
名詞特異な人

哲学や科学が解明しようとする「現象」を指す言葉です(複数形はphenomena)。タレスは、雷や作物の成長といった「自然現象」を、神々の物語ではなく合理的に説明しようと試みました。彼のこの試みが、後の自然科学の源流となったことを理解する上で重要な単語です。

文脈での用例:

The Northern Lights are a spectacular natural phenomenon.

オーロラは壮大な自然現象です。

profound

/prəˈfaʊnd/
形容詞奥深い
形容詞重大な
形容詞徹底的な

タレスが投げかけた問いの「深遠な謎」を表現するために使われています。一見すると単純な「万物の根源は水である」という答えが、なぜ人類の知の歴史において革命的だったのか。その問いの持つ奥深さと重要性を伝えることで、読者の知的好奇心を刺激する役割を担っています。

文脈での用例:

The book had a profound impact on my thinking.

その本は私の考え方に重大な影響を与えた。

origin

/ˈɔːrɪdʒɪn/
名詞
名詞出自

記事のタイトルにも含まれる中心的な概念です。タレスが歴史に名を刻んだのは「万物の根源(origin)は何か?」という、それまで誰も問わなかった問いを立てたからでした。彼の答え以上に、この根源的な問いそのものが、後の西洋哲学の大きなテーマとなったことを示しています。

文脈での用例:

The museum has many artifacts of ancient Greek origin.

その博物館には古代ギリシャ起源の工芸品がたくさんあります。

legacy

/ˈlɛɡəsi/
名詞遺産
名詞置き土産

タレスが後世に残したものを指す言葉として使われています。単なる金銭的な遺産ではなく、彼の「万物は何からできているのか?」という問いが、弟子たちによる議論を生み、西洋哲学や科学の源流となった「知的な遺産」であることを示唆します。彼の功績の大きさを伝える重要な単語です。

文脈での用例:

The artist left behind a legacy of incredible paintings.

その芸術家は素晴らしい絵画という遺産を残しました。

inquiry

/ɪnˈkwaɪəri/
名詞問い合わせ
名詞調査
動詞問いただす

記事の結論部分で、タレスの真の功績として示されている「探求の精神」を指します。答えを神話に求めず、自らの理性と観察を信じて粘り強く考え抜く姿勢のことです。この単語は、哲学の原点であり、現代にまで続く私たちの知的好奇心の核心を的確に表現しています。

文脈での用例:

Scientific inquiry begins with careful observation and questioning.

科学的探求は、注意深い観察と問いかけから始まります。

observation

/ˌɒbzərˈveɪʃən/
名詞観察
名詞監視
名詞所見

タレスが「理性(reason)」と共に用いた、哲学と科学のもう一つの柱です。机上の空論ではなく、生命が湿気を必要とすることや、水が固体・液体・気体と姿を変えることといった、現実世界の注意深い「観察」から自説を導き出した彼の方法は、後の自然科学の基礎となりました。

文脈での用例:

The scientist's theory was based on careful observation of animal behavior.

その科学者の理論は、動物の行動の注意深い観察に基づいていた。

monistic

/məˈnɪstɪk/
形容詞唯一の
形容詞一元的な

やや専門的ですが、タレスの説の真の革新性を理解するための最重要単語です。これは「世界は多様に見えるが、その根源はたった一つである」という視点を指します。彼が「水」を選んだこと以上に、この「一元論的」な枠組みを提示したこと自体が革命的だった、という記事の核心を掴む鍵です。

文脈での用例:

His philosophy is based on a monistic view that mind and body are not separate entities.

彼の哲学は、心と身体は別々の実体ではないという一元論的な見解に基づいている。