このページは、歴史や文化の物語を楽しみながら、その文脈の中で重要な英単語を自然に学ぶための学習コンテンツです。各セクションの下にあるボタンで、いつでも日本語と英語を切り替えることができます。背景知識を日本語で学んだ後、英語の本文を読むことで、より深い理解と語彙力の向上を目指します。

1971年、アメリカは突然ドルと金の交換停止を発表した。これが世界経済に与えたshock(衝撃)と、円やドルの価値が日々変動する理由。
この記事で抑えるべきポイント
- ✓1971年の「ニクソン・ショック」とは、アメリカが米ドルと金の兌換(交換)を一方的に停止した歴史的出来事であること。
- ✓その背景には、ベトナム戦争の戦費増大などによるアメリカの財政悪化と、金の流出に対する懸念があったこと。
- ✓この決定により、第二次世界大戦後から続いてきた「1オンスの金 = 35ドル」で価値を固定するブレトン・ウッズ体制が事実上崩壊したこと。
- ✓金の裏付けを失った各国の通貨は、市場の需要と供給によって価値が決まる「変動相場制」へと移行し、これが現代まで続く世界経済の仕組みの基礎となったこと。
- ✓私たちが日常的に目にする「円高・円安」といった為替レートの変動は、このニクソン・ショックをきっかけに始まった現象であること。
ニクソン・ショックと変動相場制への移行
「1ドルは、なぜ100円だったり150円だったりするのだろう?」この素朴な疑問の答えは、1971年のある日曜日の夜に下された、一人の大統領の決断に遡ります。この記事では、世界経済を揺るがした「ニクソン・ショック」とは何だったのか、そしてそれが現代の私たちの生活にどう繋がっているのかを、物語を紐解くように解説します。
The Nixon Shock and the Shift to a Floating Exchange Rate System
"Why is one dollar sometimes 100 yen and other times 150 yen?" The answer to this simple question dates back to a decision made by a U.S. president on a Sunday night in 1971. This article will unravel the story of the "Nixon Shock," a moment that shook the global economy, and explore how it connects to our lives today.
約束された安定:金とドルが結びついた「ブレトン・ウッズ体制」
第二次世界大戦後の荒廃から世界経済が立ち直るために、新たな国際金融の枠組みが作られました。それが「ブレトン・ウッズ体制」です。この巨大な経済の「システム(system)」の中心に据えられたのが、アメリカの「ドル(dollar)」でした。
Promised Stability: The Bretton Woods System Linking Gold and the Dollar
To help the world economy recover from the devastation of World War II, a new international financial framework was created: the Bretton Woods system. At the heart of this massive economic "system" was the U.S. "dollar".
揺らぐ超大国と歴史的決断:ニクソン・ショックの衝撃
しかし、1960年代後半になると、絶対的な強さを誇ったアメリカ経済に陰りが見え始めます。泥沼化したベトナム戦争の戦費は、深刻な財政「赤字(deficit)」を生み出し、日本の経済復興などによる国際競争力の低下も相まって、アメリカの威信は揺らぎます。ドルの価値に対する不安から、各国の中央銀行は手持ちのドルを金に交換しようとする動きを強めました。
A Faltering Superpower and a Historic Decision: The Impact of the Nixon Shock
However, by the late 1960s, the once-unshakable U.S. economy began to show signs of weakness. The escalating costs of the Vietnam War created a severe budget "deficit", and declining international competitiveness, partly due to the economic recovery of nations like Japan, weakened America's prestige. Amid growing anxiety about the dollar's value, foreign central banks increasingly sought to exchange their dollar holdings for gold.
通貨が「変動」する時代の幕開け:変動相場制への移行
金の裏付けという重しを失ったドルは、その絶対的な価値の拠り所を失いました。これにより、ブレトン・ウッズ体制は事実上崩壊します。主要国の通貨は、もはやドルに価値を固定しておくことができなくなり、新たな秩序を模索せざるを得ませんでした。
The Dawn of an Era of "Floating" Currencies: The Shift to a Floating Exchange Rate System
Having lost its backing in gold, the dollar lost its anchor of absolute value. This effectively caused the collapse of the Bretton Woods system. Major world currencies could no longer be pegged to the dollar, forcing them to seek a new order.
結論:歴史の転換点を知り、現代経済を読み解く
ニクソン・ショックは、単なる経済政策の変更ではありませんでした。それは、金という絶対的な価値基準に支えられた世界から、通貨の価値が互いの力関係によって決まる相対的な世界へと移行する、世界経済のルールそのものを変えた一大転換点でした。変動相場制への移行は、今日のグローバルな貿易や投資を可能にする一方、為替変動のリスクという新たな課題も生み出しました。日々のニュースで語られる為替レートの背景にあるこの歴史的文脈を知ることで、複雑に見える現代経済への理解は、より一層深まるに違いありません。
Conclusion: Understanding a Turning Point in History to Decipher the Modern Economy
The Nixon Shock was not just a change in economic policy; it was a major turning point that fundamentally altered the rules of the global economy. It marked a shift from a world anchored by the absolute value of gold to a relative world where currency values are determined by their relationships with one another. The move to a floating exchange rate system has enabled today's global trade and investment, while also creating new challenges like foreign exchange risk. By understanding this historical context behind the daily exchange rate news, our comprehension of the seemingly complex modern economy will undoubtedly deepen.
テーマを理解する重要単語
float
本来は「水に浮く」という意味ですが、経済用語では通貨が固定されず、市場の需給によって価値が変動することを指します。金の重しから解き放たれた通貨が「市場の波に浮かぶ」という比喩的な表現を理解することで、変動相場制のイメージを直感的に掴むことができます。
文脈での用例:
The government decided to let the currency float freely.
政府はその通貨を自由に変動させることを決定した。
standard
「基準」や「規範」を意味します。「金本位制(gold standard)」のように、価値を測るための絶対的な拠り所を指す言葉です。この記事の文脈では、ドルが金という明確な「基準」に裏付けられていた旧体制の安定性を象徴しており、その喪失が世界経済に与えた影響の大きさを物語っています。
文脈での用例:
This work is not up to our usual standard.
この仕事は我々のいつもの水準に達していない。
suspend
「一時的に停止する」という意味です。この記事ではニクソンがドルと金の交換を「停止」した決定的な行動を表します。単に「やめる(stop)」のではなく、あくまで「一時的な措置」というニュアンスを含んでおり、当時の発表の公式な建前を反映した言葉選びと言えます。
文脈での用例:
The ferry service has been suspended due to bad weather.
悪天候のため、フェリーの運行は一時停止されています。
deficit
「赤字」や「不足」を意味します。この記事では、ベトナム戦争の戦費増大によるアメリカの「財政赤字」が、ドルの価値への信頼を揺るがし、ニクソン・ショックの引き金となった文脈で登場します。経済ニュースを理解する上で不可欠な基本単語の一つです。
文脈での用例:
The government is facing a huge budget deficit.
政府は巨額の財政赤字に直面している。
devastation
「壊滅的な破壊」や「荒廃」を意味する、非常に強い言葉です。この記事では、ブレトン・ウッズ体制が「第二次世界大戦後の荒廃」から世界経済を復興させるために作られたという、歴史的背景を説明するために使われています。この言葉により、新体制構築の緊急性と重要性が強調されます。
文脈での用例:
The hurricane left a trail of devastation across the coastal towns.
そのハリケーンは沿岸の町々に壊滅的な爪痕を残した。
fluctuation
価格や数値などが不規則に「変動」することを指します。この記事では、変動相場制への移行によって生まれた為替レートの動きを表現するのに使われています。動詞の「float」が変動する仕組みのイメージを伝えるのに対し、この単語は結果として生じる日々の価値の「揺らぎ」そのものを指し示します。
文脈での用例:
The graph shows the fluctuation in temperature throughout the day.
そのグラフは一日の気温の変動を示している。
anchor
本来は船を固定する「錨」のことですが、比喩的に「精神的な支え」や「価値の拠り所」という意味で使われます。この記事では、金がドルの絶対的な価値を保証する「錨」の役割を果たしていたと表現されています。この比喩を理解することで、金本位制がもたらした安定性の本質が掴みやすくなります。
文脈での用例:
He was the anchor of the team.
彼はチームの頼みの綱だった。
exchange rate
異なる通貨を交換する際の比率、すなわち「為替レート」を指します。この記事全体のテーマであり、ニクソン・ショック以前は固定されていたものが、以後、日々変動するようになった現代経済の基本です。この言葉は、円高や円安といった日常的なニュースを歴史的文脈と結びつけるための中心的な概念です。
文脈での用例:
The bank offers a competitive exchange rate for travelers.
その銀行は旅行者向けに競争力のある為替レートを提供しています。
peg
「釘で固定する」が原義で、金融用語では通貨の価値を他の通貨や金に「固定する(連動させる)」ことを意味します。変動相場制(floating system)の対義語として使われ、ブレトン・ウッズ体制下で各国の通貨がドルに固定されていた状況を理解する上で欠かせない単語です。
文脈での用例:
Several countries decided to peg their currencies to the US dollar.
いくつかの国は自国通貨を米ドルに固定することを決定した。
framework
「枠組み」や「構造」を意味し、制度や計画の全体的な骨格を指します。この記事では、ブレトン・ウッズ体制が戦後世界経済を支えた「国際金融の枠組み」であったことを示しています。「system」よりも、ルールや合意によって作られた構造的な側面を強調するニュアンスがあります。
文脈での用例:
We need to establish a legal framework to deal with this issue.
我々はこの問題に対処するための法的枠組みを確立する必要がある。
unilaterally
「一方的に」という意味の副詞です。ニクソンの決定が「何の事前協議もない」まま行われたことを強調する重要な単語です。この言葉があることで、同盟国が受けた「ショック」の大きさや、当時のアメリカの決断の強引さがより鮮明に理解できます。
文脈での用例:
The company unilaterally changed the terms of the contract.
その会社は一方的に契約条件を変更しました。
convertibility
「交換できること」を意味し、この記事ではドルと金の交換可能性(兌換性)を指します。ニクソン大統領がこの兌換性を一方的に停止したことが「ショック」の核心です。この単語を理解することが、ブレトン・ウッズ体制の崩壊という歴史的転換点を正確に把握する鍵となります。
文脈での用例:
The government maintained the convertibility of its currency into gold.
政府は自国通貨の金への兌換性を維持した。