このページは、歴史や文化の物語を楽しみながら、その文脈の中で重要な英単語を自然に学ぶための学習コンテンツです。各セクションの下にあるボタンで、いつでも日本語と英語を切り替えることができます。背景知識を日本語で学んだ後、英語の本文を読むことで、より深い理解と語彙力の向上を目指します。

第二次世界大戦後、アメリカドルを世界の中心とする新たな国際通貨体制が作られた。現代まで続く、ドルhegemony(覇権)の始まり。
この記事で抑えるべきポイント
- ✓第二次世界大戦前の世界恐慌やブロック経済といった経済的混乱への反省から、戦後の安定した国際通貨秩序を目指してブレトン・ウッズ体制が構想されたという歴史的背景。
- ✓米ドルを世界の基軸通貨(reserve currency)とし、「金1オンス=35ドル」で価値を固定する「金ドル本位制」と、各国通貨とドルの為替レートを固定する「固定相場制」を二本の柱としたこと。
- ✓この体制を円滑に運営するため、国際通貨基金(IMF)や国際復興開発銀行(IBRD、後の世界銀行)といった国際機関が設立され、戦後の世界経済の復興と成長に貢献したという側面。
- ✓ベトナム戦争の戦費増大などによるアメリカの経済的負担の増加が、1971年のニクソン・ショックによる体制崩壊を招いたものの、その後の世界経済でもドルの中心的な地位は揺るがず、現代の「ドル覇権(hegemony)」へと繋がっているという歴史の流れ。
ブレトン・ウッズ体制 ― ドルが世界の基軸通貨となった日
海外旅行の準備をするとき、多くの人がまず日本円を米ドルに両替することを考えるのではないでしょうか。現代社会に深く根付いたこの「ドル中心の世界」は、しかし、自然に生まれたものではありません。実は第二次世界大戦後、ある壮大な構想のもとに意図的に設計されたシステムの結果なのです。今回は、その誕生の物語であるブレトン・ウッズ体制へとご案内します。
The Bretton Woods System: The Day the Dollar Became the World's Reserve Currency
When preparing for a trip abroad, many people first think of exchanging their local currency for U.S. dollars. This "dollar-centric world," deeply rooted in modern society, did not, however, arise naturally. It is, in fact, the result of a system intentionally designed under a grand vision after World War II. This time, we will guide you through the story of its birth: the Bretton Woods system.
混沌からの秩序形成:なぜ新体制は必要とされたのか
物語の始まりは、第二次世界大戦前の混乱にあります。1929年の世界恐慌をきっかけに、各国は自国の輸出を有利にするため、自国通貨の価値を競って引き下げる「通貨安競争」に突入しました。この意図的な「通貨切り下げ(devaluation)」の応酬は、国際経済に深刻な不信と不安定をもたらしました。
From Chaos to Order: Why Was a New System Needed?
The story begins with the turmoil before World War II. Triggered by the Great Depression of 1929, countries entered a "race to the bottom," competing to devalue their currencies to gain an export advantage. This barrage of intentional "devaluation" brought severe distrust and instability to the international economy.
1944年 ブレトン・ウッズ会議:ドルが王座についた日
終戦の足音が聞こえ始めた1944年7月、アメリカのニューハンプシャー州ブレトン・ウッズに、連合国44カ国の代表が集まりました。ここで、戦後の世界経済の骨格が定められます。圧倒的な経済力を背景に、アメリカが提案した構想が中心となりました。
1944, Bretton Woods Conference: The Day the Dollar Was Crowned
In July 1944, as the end of the war was in sight, representatives from 44 Allied nations gathered in Bretton Woods, New Hampshire, USA. Here, the framework for the post-war global economy was established. Backed by its overwhelming economic power, the vision proposed by the United States took center stage.
栄光と終焉:ニクソン・ショックという大転換点
ブレトン・ウッズ体制は、戦後の世界経済に見事な安定と成長をもたらしました。日本や西ヨーロッパ諸国の奇跡的な復興と高度経済成長も、この安定した枠組みに支えられたところが大きく、「資本主義の黄金時代」とまで呼ばれる繁栄を築き上げます。
Glory and Demise: The Nixon Shock as a Major Turning Point
The Bretton Woods system brought remarkable stability and growth to the post-war world economy. The miraculous recovery and high economic growth of countries like Japan and Western European nations were largely supported by this stable framework, building an era of prosperity often called the "Golden Age of Capitalism."
歴史の遺産として生き続けるドル
体制は4分の1世紀あまりで幕を閉じました。しかし、ここで一つの疑問が浮かびます。なぜドルの中心的な地位は、今なお揺らいでいないのでしょうか。
The Dollar's Enduring Historical Legacy
The system came to an end after just over a quarter of a century. Yet, a question arises: why does the dollar's central position remain unshaken today?
テーマを理解する重要単語
currency
「通貨」を意味する基本単語ですが、この記事では一国の貨幣に留まらず、国際的な価値の尺度としての側面が強調されています。安定した国際「通貨」秩序の構築がブレトン・ウッズ体制の目的であったことを理解する上で、その中心的な概念となります。
文脈での用例:
The Japanese Yen is a stable currency in the global market.
日本円は世界市場で安定した通貨です。
peg
「釘で打ち付けて固定する」という元々の意味から転じて、金融の世界では通貨の価値を別の通貨や金に「固定する」ことを指します。この記事の「固定相場制」を具体的に説明する動詞であり、`pegging their exchange rates`という表現で使われています。
文脈での用例:
Several countries decided to peg their currencies to the US dollar.
いくつかの国は自国通貨を米ドルに固定することを決定した。
framework
物事の基本的な構造やシステムを指す言葉です。この記事では、ブレトン・ウッズ体制が戦後の世界経済を支える「新たな枠組み」として設計されたことが述べられています。具体的な制度だけでなく、その全体像や構想を捉える上で便利な単語です。
文脈での用例:
We need to establish a legal framework to deal with this issue.
我々はこの問題に対処するための法的枠組みを確立する必要がある。
devaluation
第二次大戦前の各国が輸出を有利にするために行った「通貨安競争」の核心的な行為です。この記事では、意図的な通貨切り下げの応酬が国際経済に不信と不安定をもたらし、新体制が必要とされた歴史的背景を理解する上で不可欠な単語です。
文脈での用例:
The government announced a devaluation of the national currency to boost exports.
政府は輸出を促進するため、自国通貨の切り下げを発表した。
hegemony
ある国が他国に対して持つ、政治的・経済的・軍事的な支配力や指導権のこと。この記事では、体制崩壊後もドルが信認を保つ理由として、アメリカの圧倒的な「覇権」を挙げています。経済と国際政治の繋がりを理解する上で鍵となる概念です。
文脈での用例:
The company achieved hegemony in the software market through aggressive acquisitions.
その会社は積極的な買収によってソフトウェア市場での覇権を確立した。
convertibility
ある通貨を、金や他の通貨と交換できる性質のこと。ブレトン・ウッズ体制は「1オンス=35ドル」という金との兌換性をアメリカが保証することで成り立っていました。ニクソン・ショックがこの兌換性を停止したことを理解するために必須の専門用語です。
文脈での用例:
The government maintained the convertibility of its currency into gold.
政府は自国通貨の金への兌換性を維持した。
reserve currency
各国政府や中央銀行が、対外支払いのために準備として保有する通貨のこと。この記事の主題である「ドルが世界の基軸通貨となった」ことを表す最重要キーワードです。この言葉の意味を掴むことが、ブレトン・ウッズ体制の核心を理解する第一歩です。
文脈での用例:
The U.S. dollar has been the world's primary reserve currency for decades.
米ドルは何十年もの間、世界の主要な基軸通貨であり続けている。
fixed exchange rate
通貨間の交換比率を一定に保つ制度のこと。この記事では、ブレトン・ウッズ体制が為替の乱高下を防ぎ、安定した貿易を促進するために採用した根幹的な仕組みとして登場します。後の「変動相場制」との対比で理解することが重要です。
文脈での用例:
Under the Bretton Woods system, currencies were pegged to the U.S. dollar at a fixed exchange rate.
ブレトン・ウッズ体制下では、各通貨は固定為替相場で米ドルに連動していた。
world bank
正式名称は国際復興開発銀行(IBRD)。この記事では、ブレトン・ウッズ体制を円滑に運営するためにIMFと共に設立された国際機関として紹介されています。戦後の復興と開発を目的としたこの組織の存在は、同体制が単なる通貨制度ではなかったことを示しています。
文脈での用例:
The World Bank provides financial and technical assistance to developing countries.
世界銀行は発展途上国に財政的・技術的支援を提供している。
fiscal deficit
政府の歳出が歳入を上回る状態のこと。この記事では、ベトナム戦争の戦費拡大による米国の財政赤字が、大量のドル流出と信認低下を招き、ブレトン・ウッズ体制を崩壊させる大きな要因となった文脈で使われています。体制の栄光と終焉を理解する鍵となります。
文脈での用例:
The country is trying to reduce its large fiscal deficit.
その国は巨額の財政赤字を削減しようと試みている。
floating exchange rate
市場の需要と供給によって為替レートが日々変動する制度。この記事では、ブレトン・ウッズ体制崩壊後に世界が移行した現在の仕組みとして登場します。体制の核心であった「固定相場制」の対義語であり、歴史の大きな転換点を理解する上で重要です。
文脈での用例:
Most major economies now operate under a floating exchange rate system.
ほとんどの主要経済国は現在、変動為替相場制の下で運営されている。
inertia
元々は物理学で「物体が運動状態を維持しようとする性質」を指しますが、この記事では比喩的に使われています。体制崩壊後もドルが中心であり続ける理由として、一度スタンダードになったものが使われ続ける「慣性の力」を挙げています。
文脈での用例:
Organizational inertia can make it difficult to adopt new technologies.
組織の惰性は、新しい技術の採用を困難にすることがある。