このページは、歴史や文化の物語を楽しみながら、その文脈の中で重要な英単語を自然に学ぶための学習コンテンツです。各セクションの下にあるボタンで、いつでも日本語と英語を切り替えることができます。背景知識を日本語で学んだ後、英語の本文を読むことで、より深い理解と語彙力の向上を目指します。

モダニズムの禁欲性を批判し、歴史的な様式を自由に引用・コラージュした、1980年代以降の建築。そのplayful(遊び心のある)なデザイン。
この記事で抑えるべきポイント
- ✓ポストモダニズム建築が、モダニズム建築の機能性・合理性一辺倒の思想(Less is more)への批判として、「Less is a bore(少ないことは、退屈だ)」というスローガンと共に登場した思想的背景。
- ✓歴史的な建築様式やシンボルを意図的に「引用(quotation)」し、異なる時代の要素を一つの建物に組み合わせる「折衷(eclecticism)」というデザイン手法が、その遊び心(playful)あふれる表現の核であること。
- ✓フィリップ・ジョンソンのAT&Tビルやロバート・ヴェンチューリの母の家など、具体的な建築作品を通じて、ポストモダニズムのデザインがどのように具現化されたかを理解すること。
- ✓建築に物語性や装飾性を取り戻したと評価される一方で、そのデザインが表層的、あるいは商業主義的であるといった批判も存在するという、多角的な視点。
- ✓ポストモダニズムの運動が、その後の脱構築主義など現代建築の多様な潮流に繋がり、建築のあり方を問い直すきっかけとなったという歴史的意義。
「Less is a bore」 ― モダニズムへの反旗
均一で無機質なビルが並ぶ風景に、物足りなさを感じたことはありませんか? 1970年代後半、そんな息苦しさに異を唱える建築家たちが現れました。彼らが主導したポストモダニズムという運動は、歴史や文化を自由に参照し、遊び心(playful)に満ちた建築世界を切り開いたのです。今回は、その魅力的な世界へ足を踏み入れてみましょう。
"Less is a bore" – A Rebellion Against Modernism
Have you ever felt that a landscape of uniform, inorganic buildings is somehow lacking? In the late 1970s, a group of architects emerged to challenge this sense of suffocation. The movement they led, Postmodernism, forged a new architectural world filled with playful references to history and culture. Let's step into this fascinating realm.
引用と折衷の建築言語
ポストモダニズム建築のデザイン核となるのが、「引用(quotation)」と「折衷(eclecticism)」という手法です。引用とは、過去の建築様式や象徴的なデザインを、意図的に自作に取り入れること。例えば、近代的な高層ビルの建物の正面(facade)に、古代ギリシャの神殿のような柱を飾り付けるといった具合です。しかし、それは単なる模倣ではありません。そこにはしばしば、文脈をずらして使うことによる皮肉(irony)が込められています。
The Architectural Language of Quotation and Eclecticism
At the core of Postmodernist design are the techniques of quotation and eclecticism. Quotation involves intentionally incorporating past architectural styles or symbolic design elements into one's own work. For instance, adorning the facade of a modern skyscraper with columns reminiscent of an ancient Greek temple. However, this is not mere imitation; it often carries a sense of irony by decontextualizing the original element.
時代を彩ったPlayfulな名建築たち
ポストモダニズムの思想は、世界中に個性的な建築物を生み出しました。その代表格が、フィリップ・ジョンソンが設計した「AT&Tビル(現550マディソン・アベニュー)」です。マンハッタンにそびえるこの高層ビルの頂部には、古典的な家具の飾り(ペディメント)が載せられ、大きな物議を醸しました。これはまさに、歴史からの引用(quotation)を大胆に行った例です。
Playful Masterpieces of the Era
The Postmodernist philosophy gave rise to unique buildings all over the world. A prime example is the AT&T Building (now 550 Madison Avenue), designed by Philip Johnson. The top of this Manhattan skyscraper is crowned with a broken pediment, a feature of classical furniture, which sparked considerable controversy. This is a bold example of historical quotation.
功績と批判 ― ポストモダニズムが遺したもの
ポストモダニズムは、建築にコミュニケーションの機能や文化的な意味を回復させ、専門家以外の人々にも開かれた表現の扉を開いたと高く評価されています。街の文脈や歴史を尊重し、豊かな装飾(ornament)を復活させた功績は大きいと言えるでしょう。
Legacy and Criticism – What Postmodernism Left Behind
Postmodernism is highly praised for restoring the communicative function and cultural meaning to architecture, opening the door of expression to people beyond just experts. Its achievement in respecting urban context and history, and reviving rich ornament, is significant.
建築の可能性を広げた批評的ムーブメント
ポストモダニズム建築は、モダニズム(modernism)という巨大な潮流に対する批評的な応答であり、建築の表現の可能性を大きく押し広げた重要な運動でした。その流行は一時期のものと見なされがちですが、建築とは何か、その役割とは何かを問い直したその精神は、後の脱構築主義といった現代建築の多様な潮流へと繋がっていきます。日常の風景に潜む設計者の意図や歴史の引用に目を向けるとき、私たちの世界はより一層、豊かで興味深いものに見えてくるはずです。
A Critical Movement That Expanded Architecture's Possibilities
Postmodern architecture was a critical response to the massive trend of modernism and a vital movement that greatly expanded the possibilities of architectural expression. While its peak popularity might be seen as a phase, its spirit of questioning what architecture is and what its role should be led to diverse contemporary architectural trends, such as Deconstructivism. When we start to notice the designer's intent and historical quotations hidden in our everyday landscapes, our world will surely appear richer and more fascinating.
テーマを理解する重要単語
controversy
ポストモダニズム建築が社会に与えた衝撃の大きさを物語る単語です。この記事では、フィリップ・ジョンソンのAT&Tビルが「大きな物議を醸した」と記述されています。これは、そのデザインが当時の建築界の常識を覆すほど斬新で、多くの人々の間で賛否両論の激しい議論を巻き起こしたことを示唆しています。この言葉から、同運動が静かな潮流ではなく、ダイナミックな事件であったことがわかります。
文脈での用例:
The new law has caused a great deal of controversy among the public.
その新しい法律は、国民の間で大きな論争を引き起こしました。
ambiguous
ポストモダニズム建築が持つ特性の一つを表現するのに使われます。折衷主義によって多様な様式が混在する結果、建築は「単一の意味に縛られず、見る人によって多様な解釈が可能」な「多義的な」存在になると記事は説明します。この言葉は、意味が一つに定まらない状態の豊かさを示唆しており、モダニズムの明快さとは対照的な価値観を理解する上で重要です。
文脈での用例:
The ending of the film was deliberately ambiguous.
その映画の結末は意図的にあいまいなものにされていた。
superficial
ポストモダニズムへの主要な批判を的確に表す単語です。歴史的な様式を本質的な理解なしに切り貼りするデザインが「表層的」である、という批判に使われています。深い構造や意味よりも、目に見える表面だけに関心が向いている、というニュアンスを持ちます。この批判を理解することは、ポストモダニズムを多角的に捉え、その功罪を評価する上で不可欠です。
文脈での用例:
Their analysis of the problem was too superficial to be useful.
彼らの問題分析は、役に立つにはあまりに表面的すぎた。
irony
ポストモダニズムの批評精神を理解するためのキーワードです。この記事では、歴史的様式の引用が単なる模倣ではなく、文脈をずらすことで生まれる「皮肉」を伴うとされています。これは既存の権威を相対化し、物事を多角的に見るための知的な遊戯です。この単語のニュアンスを掴むことで、ポストモダン建築の単なる奇抜さの奥にある批評的な意図を読み解くことができます。
文脈での用例:
The irony is that his new fire station burned down.
皮肉なことに、彼の新しい消防署は全焼してしまった。
ornament
モダニズムが「罪悪」として排除し、ポストモダニズムが復活させた「装飾」を指す、この記事の核心的な単語です。単なる飾りではなく、建築に歴史性や物語性、文化的な意味を与える要素として描かれています。この単語の扱いの違いが、両主義の思想的な対立を象徴しており、その変遷を追うことで記事の理解が深まります。
文脈での用例:
The building was plain, with little ornament.
その建物は飾り気がほとんどなく、簡素だった。
quotation
ポストモダニズム建築の重要なデザイン手法「引用」を指します。この記事では、単に過去の様式を真似るのではなく、意図的に文脈をずらして取り入れることで皮肉や新しい意味を生み出す創造的な行為として説明されています。AT&Tビルの例のように、建築における「引用」がどのようなものかを理解する上で鍵となる単語です。
文脈での用例:
He ended his speech with a quotation from Shakespeare.
彼はシェイクスピアからの引用でスピーチを締めくくった。
rebellion
ポストモダニズムを「モダニズムへの反旗」と位置づけるこの記事の副題で使われています。単なる反対ではなく、既存の権威や体制に組織的に立ち向かう強い抵抗のニュアンスを持つ単語です。これを知ることで、ポストモダニズムが単なる様式の違いではなく、思想的な挑戦であったことが深く理解できます。
文脈での用例:
The government swiftly crushed the armed rebellion.
政府は武装反乱を迅速に鎮圧しました。
facade
建築、特にその外観デザインを語る上で頻出する単語で、「建物の正面」を意味します。この記事では、ポストモダニズム建築が歴史的な様式を「引用」する際のキャンバスとして登場します。比喩的に「見せかけ」や「うわべ」という意味も持ち、表層的だと批判されるポストモダニズムの性質を二重に暗示しているとも解釈でき、興味深い単語です。
文脈での用例:
The facade of the Sagrada Família depicts the life of Christ through elaborate sculptures.
サグラダ・ファミリアのファサードは、精巧な彫刻群によってキリストの生涯を描いています。
playful
ポストモダニズム建築の精神性を最もよく表す形容詞の一つです。モダニズムの厳格さや真面目さから解放され、歴史や文化の要素を自由に取り入れて楽しむ態度を示します。この記事では、つくばセンタービルの例などでその「遊び心」が紹介されています。機能一辺倒ではない、人間的な楽しさや豊かさを建築に取り戻そうとした運動の本質を捉える上で重要な単語です。
文脈での用例:
The designer is known for her playful use of color and pattern.
そのデザイナーは、遊び心のある色と柄の使い方で知られている。
modernism
ポストモダニズムを理解する上で対立概念として不可欠な言葉です。この記事では特に20世紀の建築様式を指し、「形態は機能に従う」という理念のもと、合理性や普遍性を追求し装飾を排したスタイルと説明されています。この定義を把握することが、ポストモダニズムの反抗やその後の展開を理解する全ての出発点となります。
文脈での用例:
Modernism in art and literature flourished in the early 20th century.
芸術や文学におけるモダニズムは、20世紀初頭に全盛期を迎えました。
suffocation
モダニズム建築がもたらした精神的な「息苦しさ」を表現するために使われています。物理的な窒息だけでなく、比喩的に抑圧された状況や閉塞感を示すのにも用いられる単語です。この記事の文脈では、均一で無機質な空間が人々の感性をいかに圧迫していたかを感情的に伝え、ポストモダニズム登場の必然性を強調しています。
文脈での用例:
The room was so crowded that he felt a sense of suffocation.
部屋は非常に混雑しており、彼は息苦しさを感じた。
eclecticism
ポストモダニズムのもう一つの核となる手法「折衷」を意味します。異なる時代や地域の様式を一つの対象の中に大胆に組み合わせることを指します。この記事の文脈では、建築が単一の意味に縛られず、多様な解釈を許す多義的な存在へと変わる原動力として説明されています。この概念を理解すると、ポストモダン建築の複雑さや豊かさが見えてきます。
文脈での用例:
Her taste in music is marked by a broad eclecticism.
彼女の音楽の好みは、幅の広い折衷主義によって特徴づけられる。